わかりやすい「Vitola」

2016-05-24

質問でよくあるのが「ビトラってどういう意味なんですか」というものだ。How to Cigar?にもあるが、先に回答すると、ビトラ(Vitola)のは「シガーリング」と「サイズとシェイプの複合規格名」のふたつの意味がある。

日本のシガーにおける文献・ネット上の知識は、古い書籍の誤った内容の引用また引用や伝聞、誰かの手癖、思い込み、オカルトなどなど誤ったものが多いので、古い本では未だ「ビトラという言葉の意味は曖昧」「使わない方が良い」とされているケースがある。ようは彼らは「意味が分からないから使わない方が良い」ということにしたのだろう。
「Vitola」というひとつの単語で別個の意味を持つ言葉を、日本に持ち込もうとした際に、うまく意味がつかめなかったのが尾を引いていると考えられる。(オフィシャルの解説本を読めば簡単に解決するのだが……)

Habanos S.A.オフィシャルの書籍にはビトラについて解説が記載されている。

シガーリングはシガーバンドとも呼ばれるが、昨今それがビトラと呼ばれるのは稀だ。
では規格名についてだが、ビトラという言葉の便利さはここで発揮される。

シガーの外見は長さ・太さと形(シェイプ)で決まる。これにより他の種類のシガーと区別を付けている。

長さはミリメートル。
太さはリングゲージ(RG)あるいはセポ(CEPO)で表され、1リングゲージは64分の1インチ。リングゲージに0.397をかければミリ単位に換算できるが、伝統的に直径をミリメートルで表す事はあまりしない。
そしてシェイプ。まっすぐなパレホ、両端が絞られたペルフェクト、ヘッドが尖ったピラミデなど、シェイプは多岐にわたる。

長さが少しでも変われば、RGがひとつでも違えば、シェイプが異なればそれは別の種類のシガーだ。これら全てを区別するため、それぞれに固有の名称を付けなければならない。その概念が「ビトラ」だ。

例を挙げれば、RG40で140mmのパレホは「クレマス」、RG42で132mmのパレホは「エミネンテス」と呼び区別されている。この呼称がビトラだ。
そして、同じビトラでもブレンドやブランドが違えばそこで区別を付ける必要が出てくる。
そのために商品名が存在する。例えばパルタガスのクレマスは「パルタガス・デ・ルクセ」だがロメオ・イ・フリエタのクレマスは「ロメオ No.1」、そんなふうに使われる。


さて、そんなビトラにも2種類のビトラが存在する。「ストアビトラ(ビトラ・デ・サリダ)」と「ファクトリービトラ(ビトラ・デ・ガレラ)」だ。
難しく考える必要はない。工場内では生産を厳密に行うために細かなビトラの区別が必要だが、ユーザーはひとつひとつのビトラを憶えていられない。だが、例えば好みのシガーについてシガーショップの店員に伝える場合はどうすれば良いのだろうか?
そのため、ある程度近しいビトラをポピュラーネームとしてカテゴライズした「ストアビトラ」が存在するというわけだ。

電気シェーバーにはスリーヘッドや首振り、水洗い可など様々な品があるが、ひとくくりに「電気シェーバー」にまとめられる。T字カミソリも三枚刃四枚刃五枚刃、様々にあるが「T字カミソリ」にまとめられる。これが「ストアビトラ」にあたる。
先に出した例を使うと、「クレマス」と「エミネンテス」は「コロナ」というストアビトラに含まれる。

オフィシャルの商品資料冊子やシガー雑誌にもビトラという言葉は使われる。

まとめると、ビトラという言葉には「シガーリング」と「長さ・太さ・シェイプの複合規格名」(「厳密な長さ・太さ・シェイプの複合規格名」「ざっくりとした長さ・太さ・シェイプののカテゴリー名」)の意味がある。
だが、ビトラすべてを憶える必要はない。ようは「ビトラとは何か」という意味さえおさえていれば問題ないのだ。

どのような世界でも、その世界で使われる専門用語と切っては切れない。ラジコンを操作するプロポを何と呼ぶだろうか。登山のアイゼンを何と呼ぶだろうか。ビトラも同じ、他に呼び方がない。
ビトラという言葉はずいぶん昔からハバノスがオフィシャルで使っているので、ディープな業界用語ではなくラッパーやヘッドなどと同じ、単なる葉巻の用語だ。
シガーの世界はスペイン語と英語が混じっている。スペイン語が残っているのは、英語に直せない概念そのものが用語として残されているので、きちんとした意味があり世界で使われ続けている。医療関係でドイツ語が残っているのと同じ事なのかもしれない。
古い情報はそれが絶対だと思い込む前に、振り返って見つめ直してみよう。
ちなみに、ノンキューバンシガーにはビトラという概念がないブランドもある。