Trinidad Farmhouse Humidor Double Robustos '03

2016-07-20

2002年にトリニダから発表されたファームハウス・ヒュミドールはのどかなキューバの農園に佇む小屋の形をしたヒュミドールだ。中にはフンダドレスが10本、このヒュミドール専用のビトラであるダブルロブストが10本、計20本が収められている。限定で100箱。

あまりの人気に翌年に増産されたが、その数は多くはない。

後ほどエンスエノスと名付けられたダブルロブストはRG50×192mm。長さが同じグランパナテラをのぞけばトリニダ最大のビトラとして君臨している(ブックヒュミドールたるトレ・イズナガは52×170でRGはこちらの方が太い)。

一本取り出して香りをかぐ。ウッドを強く発し、濃厚なタバコ感を漂わせている。ラッパーは経年変化でやや深くなったコロラド。ラッパーが浮きはじめ、巻かれてから経た年数を物語っている。

ブランドアイコンであるピッグテール、旧金リング、そしてこのダブルロブストという体躯の威容。持ってみた感じの重厚感も、他のビトラにはないものだ。表面の潤いは薄いがまったりとした油分が染み出てきている。

 

フットを吸うとドローはよく通る。キャップが少し不安定だったのでパンチカットを選択する。フットに火を点すと、Trinidad特有の澄んだウッドの香りが立ち昇る。

喫煙する。

枯れたシガー特有の甘み・旨みが、明確な輪郭を持った暴力のように口腔を蹂躙する。ぐっと顔を背けそうになるほどの圧力だ。

旨みがきつすぎる枯れ節。ドライフラワー。黒烏龍茶。白檀。陳皮。グアニル酸の強い出し汁。

煙のタッチが素晴らしい。シルキーなどという陳腐な表現では足らず、明確な物質のような質感がある。ある程度のRGがあるからこその特質だろう。

白みがちの美しい灰を3センチほどで落とし、強喫煙するとさらにそれははっきりとする。軟口蓋に感じる煙は気体というより流体だ。そこにツーンとくるような針のように尖った旨みが深く刺さり、舌の付け根から溢れる唾液が止めようもない。白粉。金平糖。樹液の多い樹木の焚き火。ボディはミディアム。

 

中盤あたりでフラットにリカットする。本性を現したダブルロブストは牙を剥き、あっさりと食われてしまった。

シイタケ系の旨みはさらに厚くなり、カシューナッツのコクが加勢してくる。全てのテイストがひとまわり大きく膨らみ、ガス香はますます勢いを増しこちらはノックダウン寸前だ(もちろんヤニクラという意味ではなくあまりの強烈な旨みに意識を持っていかれそうになっている、という意味だ)。

 

同世代のフンダドレスと味わいのベクトルは同方向だが、そのコンポジションは明確に区別されている。さらに情感深く、大きな懐を持ち、立体感が桁違いだ。次元の数が違う、とでも言えば良いのか。

吹き戻してやるとそのテイストは収縮し、円錐のような形を持って味蕾に炸裂する。

揮発感を伴う煙はガス香を放ち、めくるめく数多の味を潜ませるそれはまさに幽玄という言葉が相応しい。オイル分を溜め込んだラッパーはフットの先端で丸く灰に食い込み、さらなる熟成へのポテンシャルを誇示している。

タバコ葉特有の青っぽい甘みを放ち、白粉、香木、炭酸感をひっくるめた精緻を極めた旨みに酔っているといつの間にか終盤に差し掛かっている。

吹き戻してやると、脂の浮いた魚の干物のような旨みと蛋白質が一緒くたになったような明確な味わいが吹き抜ける。鼻から抜いた時のアフターは大輪の白い花を感じさせ、非常に華やか。

ボディはやや太くなり、味わいはすでにシガーの範疇を超え何か旨みの塊の珍味を相手にしているような気にさえなってくる。

 

すでに喫煙の奴隷と化した身に容赦なく終盤の洗礼を浴びせかけてくる。

短くなったシガーを美味しく吸いきるにはある程度の技術が必要だが、そんな小細工は必要ないとでも言わんばかりの旨みの洪水だ。上顎に滞留するウッドを吐く事なく漂わせていると惚ける。知能が落ちる。

 

残り4センチからの記憶がない。

ただ白檀の嵐に吹かれていたら、ダブルロブストはすでに燃え尽きていた。80分で喫了。

極上のさらにその上に立つこのシガー、ハバノス最高のひとつに数えても良いだろう。市場に出回る事はほとんどなく、あってもオークションピースだが入札する価値がある。深淵を覗きたい方はぜひ。

LABEL : Trinidad 【Aged】 【Special】