8-1:葉巻にまつわる勘違い クールスモーキング

2015-11-18

葉巻というのはとかくイメージが先行しがちなもので、「悪そう」「成金」「タバコの親玉」など先入観で決められたものが多い。

葉巻に触れた事がない方の言葉でよく聞くのが「ゴッドファーザーみたい」が非常に多いが、おそらくゴッドファーザー三部作を見た事がない方だろう。(ゴッドファーザーで葉巻が出てくるのは3カットくらいしかなく、ほとんどの登場人物がシガレット=紙巻きタバコを吸っている。メインキャラクターは葉巻を吸わない)

シガーを趣味としない人がイメージ先行でとらえるのは当たり前だが、自称他称を問わず、葉巻の大家と言われる人々もこのイメージから逃れられないらしい。

 

もっともこれは、オリジナルの葉巻の提供元であるHabanos S.A.のせいも多分にある。

葉巻はワインに例えられる事が多いが、ワインのように事細かに情報が開示される事はなく、生産される葉の種類、産地、工場、製法、ブレンド、保管方法、楽しみ方、等々……のアナウンスがまったくといっていいほどないのだ。消費者が途方に暮れてしまうのも仕方がない事だろう。

深遠なる葉巻の世界だから、何か作法や特別な技術や詳細なルールが必要だと思い込んでいる人は多い。

私もそのような事柄を入念に調べ、作法や技術やルールに拘る時期があった。

しかし、経験と照らし合わせて、海外の文献を調べ、論理的に考えてみると、それらほとんどが単なるオカルトや意味のない格式張った儀式であり、初心者や未経験者のハードルを高め、イメージや思い込みを助長するものであると断言できる。

その誤りを払拭すべく、いくつか例を挙げていきたいと思う。

 

クールスモーキング:

 

この和製英語がいつごろから使われるようになったかは定かではない。

「灰を落とさず、長く残す。長くなった灰はラジエーターの働きをし、流入する空気の温度を下げ、葉巻の火種が熱くなるのを防ぐ。火種を熱くしないように吸入は一定にし、吸い込む煙は熱くならないように」

だいたいはこのような感じだろうか。

結論から言うと、これは誤りだ。

燃焼に関係するのは冷たい空気ではなく、空気の流入量である。葉巻の灰自体が熱を帯びているので、フットに流入する空気の温度が低いのが理想であるならば、灰は常に落としている状態でなければならないはずである。

また、一定の吸入で喫煙すると葉巻が長いときは火が消えやすく、短くならないと火種が安定しない。これは火種からヘッドへの距離の問題である。

そして葉巻は燃焼する温度によって味わいが変化する。スモーカーなら感じた事があると思うが、強く吸い完全燃焼させる(強喫煙)とテイストもアロマもボディも変化する。

 

思うにこれは、葉巻よりも先にパイプ喫煙が一般に広まった日本の歴史から、パイプの吸い方を葉巻に当てた事により広まった誤解だろう。クールスモーキングという概念はパイプの技術だ。

灰をなるべく落とさないというのは日本のバー文化における添え物としての葉巻の後付けの作法で、灰皿に葉巻の灰をこそげ落としたり、頻繁に葉巻を叩く事が美しくないという美意識からきた儀式と考えられる。

 

このような誤解はすでに修正が難しいほど広まり、Wikipediaにも掲載されているほどだ(Wikipediaが全て正しいと考えている人はいないだろうが……)。

 

葉巻の吸い方について書くとき、過去の文献を写し、それをまた写しの繰り返しでこの通説が広まったのだろう。

海外の葉巻喫煙にはこのような作法はない。

ロングアッシュという遊びがあるが、葉巻の灰を一度も落とさずに吸えるかという一種の見せ物だ。やると分かるが、これほど葉巻をまずく吸う方法もない。

 

では、どう吸えばいいのか。

葉巻は消さないように吸う。これだけだ。

火種が消えて再着火すると、風味は劣る。

葉巻は太さと長さにより喫煙方法を変える——。この事を念頭に置き、喫煙に強弱を付ける。

葉巻は序盤・中盤・終盤で味わいが変化する。さらに強弱を付けて喫煙する事により、バラエティ豊かな喫味を見せてくれる。

 

じっくり吸うのもいいことだ。葉巻表面のオイル分が熱で揮発し、素晴らしいアロマを放つ。しかし、震える指で落灰を気にしながら灰皿の上に葉巻を固定して喫煙する事は傍目に見て優雅とは言えない。

クールスモーキングについてはこちらにも書いてあるので読んでほしい。

 

何度も言うようだが、クールスモーキングは意味がなく、その葉巻のポテンシャルをじゅうぶんに味わえる技法ではない。

葉巻がライフスタイルとなるほど馴染んだ人にとっては、感覚的に理解できる事だろう。