9-1:シガーの起源

2016-02-08

たばこの葉からできるシガー。一本のシガーには、様々なものがつまっています。たばこの起源、そして発展の歴史を見てみましょう。

たばこの花。ナス科タバコ族の植物で、小さな花をつける。

学名 Nicotiana tabacum (ニコチアナ・タバカム)の起源は古代アメリカ大陸であると考えられており、南米アンデス山脈に存在した野生種が起源という説が有力です。そこから大陸に広がり、たばこは広く栽培されました。

コロンブスによる新大陸の発見。すべてはここからはじまった。

ナス科タバコ族のこの植物は、1492年、コロンブスがカリブ海沖のグアハニ島に上陸したことにより世界中に広まる事になりました。

コロンブスはこの島をサンサルバドルと名付け、王旗と十字架を戴き島を探検していると、乾燥した葉を筒状に丸めて燃やし、香り高い煙を吸っている先住民アラワク族と出会いました。

 

麦や馬、牛などが新大陸へともたらされ、ヨーロッパには新たに「発見」されたジャガイモやトウモロコシなどとともに、たばこがもたらされました。

たばこは当初、薬草として扱われましたが、しだいに喫煙の風習が広がり、ヨーロッパ各地、アジア・北アメリカ、そして全世界へとそれが拡大していったのです。

編集長五十嵐の持つたばこの葉。キューバ、ピナ・デル・リオにて。

新大陸への上陸をきっかけに、ヨーロッパへ持ち込まれたたばこですが、特に注目されたのは薬草としての効能でした。

疫病や食糧難に苦しむ当時のヨーロッパへ、新大陸へ渡った多くの探検家たちがたばこを持ち帰り、薬として使用している先住民の報告をしたため、たばこの研究が始まりました。そのなかでも有名なのはスペイン在住の医師ニコラス・デ・モナルデスが1571年に著した「西インド諸島からもたらされた有用医薬に関する書第二部」です。新大陸の先住民の使用法や薬効が詳細に記されたこの本はヨーロッパ各国で翻訳されベストセラーとなり、たばこ万能薬信仰の土台として、長く影響を残しました。

スペイン・セビリア在住だった医師、ニコラス・デ・モナルデス。

植物としての「たばこ」の属名であるニコチアナ(Nicotiana)や、成分名であるニコチン(Nicotine)は、フランスに初めてたばこを伝えたとされるジャン・ニコの名が語源となっています。

16世紀の中ごろ、当時のフランス国王・アンリ2世の命により、駐ポルトガル大使として同地に赴任していた彼は、王立公文書館長からたばこをもらい受け、フランス王室に送ったとされています。

たばこ葉を献上するジャン・ニコ。

その後、自分の子を三代にわたってフランス国王にし、フランスを影から操ったメディチ家のカテリーナ・ディ・メディチが、嗅ぎたばこを頭痛薬として使ったことなどから、フランス王侯貴族の間に流行しました。これ以降嗅ぎタバコは貴族の間の嗜好品として重宝されました。

 

「西インド諸島からもたらされた有用医薬に関する書第二部」の写本。

ニコラス・デ・モナルデスが著書を発表した頃、スペインの植民地内でのたばこの栽培・加工が盛んになります。これはスペインが、コンキスタドールたちにより現メキシコの中央部に栄えたアステカ王国と、ペルー・ボリビア・エクアドルの南米三国を中心に栄えたインカ帝国を征服したことに端を発します。

 

無敵艦隊を有する絶対王政まっただ中のスペインは、植民地が自国にもたらす莫大な富を求めていました。なかでも薬草としても注目を集めるたばこは重要な産物のひとつであり、スペインは資源の豊富な南米の各地を次々と征服・植民地化し、現地でたばこ栽培を促進させます。これにより、スペインはイギリスが台頭しはじめる16〜17世紀前半まで、世界のたばこ貿易を独占する黄金時代に至りました。

 

新大陸の多くを植民地としたスペイン人は、先住民たちの喫煙風景を目撃し、その文化を自国に持ち帰ります。それは南米地方で主流だった「葉巻」と「巻たばこ(たばこ葉をトウモロコシの皮などで巻いたもの)」による喫煙でした。特に「葉巻」は、18世紀以降のスペインにおいて、たばこの代名詞になります。

新大陸では吸う・嗅ぐ・噛むなど様々な方法でたばこが扱われていました。パイプによる喫煙は南米の一部でも行われていましたが、多くは北米でした。

キューバのタバコ農園。ピナ・デル・リオ。

16世紀には、スペインでは自国でのたばこの利益を増やすため、葉巻の製造も開始します。1717年には、「王立たばこ工場」がセビリアに創設され、本格的な葉巻の大量生産がはじまりました。

「巻たばこ」は、18世紀後半には「パペリート」という名でスペイン国内に広まりました。

たばこのさらなる広がりは、1806年にスペインに侵攻したナポレオン軍の兵士たちが、フランスに帰国するときに葉巻を持ち帰ったことが欧州全土への普及の始まりといわれています。

王立タバコ工場跡。現在はセビリア大学校舎となっている。

イギリスでは、17世紀半ばから流行した「コーヒーハウス」がたばこの拡大に一役買いました。紅茶やコーヒーとともに葉巻を楽しみ、新聞や雑誌を読んだり、客同士で政治談議や世間話をするなどしていました。こうした場は近代市民社会を支える世論を形成する重要な空間となり、イギリス民主主義の基盤としても機能したといわれ、フランス革命においてカフェが果たした役割とよく比較されます。

 

その後、葉巻は19世紀にかけて嗜好品として洗練されていきます。

ディナーの後、婦人たちと別れ紳士のみシガールームに集まり、酒と葉巻を楽しむ習慣ができ、高級ホテルやクラブ、列車の客車に葉巻喫煙用の部屋が用意されます。

自動車には葉巻に着火するためのシガーライター(シガレットライターでないことに注目です)がつき、葉巻を喫煙する際に着用したスモーキング・ジャケットは形を変え夜間用の礼服になりました。

 

 

たばこのオリジナルである葉巻は文化として成熟し、様々な分野に大きな影響を与えました。

人類の長い歴史をともにしてきた葉巻。立ち昇る煙の中に多くのロマンが秘められているのです。