9-2:シガーのできるまで・VEGA

2016-02-22

キューバの西、Pinar del Rio(ピナール・デル・リオ)州でタバコ葉は育てられる。中でもVuelta Abajo(ブエルタ・アバホ)といわれるエリアは最高のタバコ葉を生産する地として有名。ラッパー用の葉はほぼここで生産される。ワインのブドウ畑と同じように、ブエルタ・アバホは産地の名前ではなく、畑の質の呼称なので、離れた場所にもブエルタ・アバホが存在する。
 


他にも、Semi Vuelta(セミ・ブエルタ)、Vuelta Arrib(ブエルタ・アリバ)、Partido(パルティド)など、エリアでタバコ葉の質が分かれる。また、認証された最高限定畑はPlanteo de la mesa(プランテオ・デ・ラ・メサ)やVegas fina de primera(ベガス・フィナ・デ・プリメラ)と呼ばれる。

 

キューバでは長く、キューバ由来の「Tabaco Negro Cubano(タバコ・ネグロ・クバーノ)」と呼ばれる種のタバコが栽培されていた。

1940年代、品種改良の末「Criollo(クリオーリョ)」と呼ばれる品種が誕生。また美しいラッパーとしての葉が収穫できるエル・コロホ農場で開発された「Corojo(コロホ)」種もこの頃から栽培されるようになった。

1992年に「Habana 2000(ハバナ2000)」が開発され、1998年には「Criollo 98」が開発される。

2006年にはその2種のハイブリッドである「Habana 2006」が生まれ、病気に強く、収穫に有利なタバコ種はさらに研究開発がすすめられている。

タバコ畑のベゲロ。栽培は非常に手がかかる。

 

タバコの種は国営タバコ研究所から各Vega(ベガ:タバコ農園)に支給される。

芥子粒のように非常に小さいこの種は、カップで区分けした土の上に蒔かれたり、水耕栽培で育てられる。

畑の準備は伝統的に9月15日から始められる。牛と鋤で耕し、化学肥料は使われない。種は発芽から45日ほどで苗は15〜20センチの高さになり、専用のタバコ畑へ定植される。そこで弱い苗を抜き、強い個体だけを選別し畑へ運ばれる。

この頃からキューバでは雨期が始まるが、定植直後のタバコ苗には水がとても重要なので、引き続き人の手で水を与えられ続けられる。

 

タバコ葉の栽培方法には、2種類が存在する。

 

■Tabaco tapado(タバコ・タパド)日陰栽培

ラッパー(Capa:カパ)用のコロホ種に使用される栽培方法。

Tapado(タパド)と呼ばれる白い布がタバコ畑一面にかけられ、直射日光がタバコ葉に当たらないようにする。これにより葉に厚みが出ず、薄く美しく滑らかなラッパー用の葉を作る事ができる。

コロホ種は上から7段階、一本に8・9組の葉を付け、それぞれの位置で名称が決まっている。その高さごとに数日間隔をあけながら、葉の成長を見計らって収穫する。すべての葉の収穫を終えるのに40日かかる。葉は色・部位ごとに区別され出荷される。

タパドがかけられ、直射日光が遮られている。

 

■Tabaco del sol(タバコ・デル・ソル)日向栽培

バインダー(Capote:カポーテ)、フィラー(Tripa:トリパ)用のタバコ葉に使用される栽培方法。

タパドを被せず栽培する。これにより強い日差しを受け、強い味・アロマのタバコ葉ができあがる。

一本に6・7組の葉を付け、その位置により名称がつけられる。

太陽をいっぱいに浴びたタバコ・クリオーリョは独特の味わいを醸し出す。

 

キューバにおけるタバコ栽培はほとんどVeguero(ベゲロ:タバコ栽培農民)の人力での農法なので、非常に手間がかかる。

タバコが十分に成長するまで、45〜50日ほどかかる。栄養を取られないための除草はもちろん、熟練の農家が葉を間引きし、一本一本念入りに目を配る。

強い根を作るためにAporque(アポルケ)と呼ばれる畝立てを行い、葉に栄養を行き渡らせるための摘蕾(Desbotonar:デスボトナール)、ひこばえの摘取(Deshije:デシーへ)なども行う。

粗末な木製のカーサ・デ・タバコ。昔から造りは変わらない。

 

定植から約50日後にタバコ葉の収穫が始まる。タバコ葉は下の葉から成熟していくので、収穫するときはそれに合わせて下から上への順で摘んでいく。

一度に全て収穫できるのではなく、葉の成長・成熟具合を見ながらおよそ一週間ごとに1本から2・3枚摘んでいくので、非常に時間と手間がかかる。

葉が濃い青から明るい緑へと変わり、葉先が丸まり先体が平らに、中央の葉脈が黄色みがかってくると収穫時期の目安となる。

 

クへにかける準備。葉を痛めないように熟練の技が必要。

 

採取されたタバコ葉はすべて自然乾燥させ、温度や湿度がきちんと保たれているか、常に監視の目を光らせる。

収穫されたばかりの葉はCasa de tabaco(カーサ・デ・タバコ)と呼ばれる小屋に送られる。カーサ・デ・タバコは、高い屋根を持つ木造の小屋で、正確に東西の方向に向いている。そこで、2〜3枚ごとに葉を糸でつなぎ、同じ日に乾燥が始まるよう計算して、葉の種類ごとにCuje(クへ)と呼ばれる大きな棒にかけられ陰干しされる。

このキュアリングの目的は、収穫したタバコ葉を乾燥させることにある。単に水分を蒸発させるのではなく、葉の長期保存がきくように含有水分を調節する目的がある。Secado(セカド)という。

葉は50日をかけ自然乾燥していく。およそ85%の水分が蒸発し、赤みを帯びた金茶へと色が変わっていく。そして布のような弾力を持つ。

このカサ・デ・タバコでの一連の処理をCurasion(クラシオン)という。

クへにかけられ、色の変わる様がよくわかる。

 

次に一時発酵が行われる。乾燥の済んだ葉は、クへごとにひとつにまとめられる。このまとまりをGavilla(ガビージャ)と呼び、ガビージャはCamara(カマラ)と呼ばれる発酵小屋に運ばれる。ガビージャは50センチほどに密集して積み上げられ、内部に残った水分で30日ほど発酵される。この山をPilones(ピロネス)と呼ぶ。

発酵の最中も状態は管理され、35℃を超えるとピロネスを崩して空気を入れ、また積み直すを繰り返していく。

この発酵で葉の樹脂が消失していき、色が均一になってくる。

発酵が進み、独特の芳香を放ちはじめる。

 

そして二次発酵へ取りかかる。フィラーとバインダーのガビージャに水とタバコの茎を混ぜたもので湿度を与え(Betun:ベトゥンと呼ばれる)、葉の中央葉脈を取る。これをDespalillo(デスパリージョ)と呼び、その職人の女性はDespalilladoras(デスパリジャドーラス)と呼ばれる。

葉はタイプやランクによって分類され、さらに色・質感・葉の状態・破れ・サイズに分類される。

ラッパーには、葉にシミをつけず、傷がつかないよう真水がふりかけられる。ラッパーの葉脈取りと最終的な分類は、葉巻工場のデスパリジャドーラスによって行われる。

 

分類された葉はもう一度大きな山に積み上げられる。Burro(ブロ)と呼ばれるその山は、与えられた湿気で一次発酵よりも強い発酵が約60日続けられる。

セコやボラードは発酵期間を短く、リヘロは長く発酵される。

前回よりもさらに厳密に、葉の種類ごとに温度が管理され毎日チェックされる。この作業は表面だけでなく温度計を差し込んで全体も行い、ブロの位置を上下入れ替え、発酵が終わるまで続けられる。

これにより強烈なニコチンやタールは弱まり、アンモニアや酸味が分解され化学変化を起こし、いわゆる葉巻の風味へと形成される。

ヤグアに包まれタバコ葉は長い夢を見る。

 

二次発酵の後、フィラーを棚に並べて空気にさらし数日休ませる。これをOreo(オレオ)という。葉が安定したら、フィラーとバインダーはPaca(パカ)と呼ばれるアルピジェラという麻でできた袋に入れられ、ラッパー用の葉はYagua(ヤグア:キューバヤシの幹の皮)でできたTercio(テルシオ)という四角い箱に入れられる。ヤグアは乾いたときプラスチックのように硬くなるが、呼吸をするためラッパーの熟成を促す機能がある。

タバコで燻煙されて害虫や病気の繁殖が防がれている倉庫にパカとテルシオは移され、そこで1〜2年保管される。この倉庫内では、全ての葉は調合時のばらつきをなくすため葉の品種・部位・畑名・収穫年・発酵期間によって区分されている。

熟成と発酵はニュアンスが異なり、熟成は定められた品質へ均一化させる工程を指す。タバコ葉は定められた期間、倉庫でゆっくり熟成され、工場へと出荷される。

通常、フィラー用としてリヘロは3年、セコは2年、ボラードは1年。バインダー用の葉は1年、ラッパー用の葉は1年熟成させる。限定品用のラッパーは2年から5年寝かせられる。

 

エル・ラギート工場中央階段。古くは娼館に使われていたこの建物で、Cohibaは作られる。

 

コイーバに使われる葉は、特別に選び抜かれた最高の葉であると同時に、特別に「三次発酵」という処置が施されている。その発酵は、唯一特殊な環境を整えられるエル・ラギート工場内の特別室で行われる。

 

Text by Tatsuya Igarashi:Twitter FaceBook

2017-09-09 更新