9-3:シガーのできるまで・FABRICA

2016-02-22

 

■準備

工場に運び込まれたラッパー用葉は、最初に下準備が施される。

Moja(モハ)と呼ばれる早朝に行われるそれは、ラッパー用の葉に霧状のシャワーをかけて、巻き上げまでの工程上に必要な水分を補給する作業だ。これを行う職人はMojador(モハドール)と呼ばれる。

一枚ずつ分けて葉をほぐし(Zafado:サファド)、それを束ね、湿らせて弾力を取り戻させる。そしてSacudidor(サクディドール)と呼ばれる職人がParrilleros(パリィエロス)という部屋でモハを終えた葉の水気を切り、ふたたびオレオを行う。

ここでは農場とは違い、温度32℃、湿度92%に調節した部屋に5時間吊るす。その後プラスチックの作業箱で10時間から3日ほど様子を見ながら休ませる。これによりラッパー用の葉に湿気が均一になじみ、巻き上げのための弾力性と手触りが復活する。

デスパリージョ。流れるような早さで葉を分割していく。

 

次にデスパリージョが行われる。工場ではラッパーの葉脈を取り除き、1枚の葉を2枚に分割する。その後、全ての葉は燻煙殺菌を受ける。
ラッパー用の葉は巻き上げのために選別する作業に入る。葉の色、大きさ、きめ、傷の有無などが厳しくチェックされる。これはRezagado(レサガード)と呼ばれる。

レザガード。目的ごとに分類された葉を間違えないように箱に分けていく。

 

フィラー・バインダー用の葉はEscogida(エスコヒーダ)と呼ばれるグレーディングを受け、原料仕分け室へ送られる。Acondicionado materia-prima(アコンディショナード・マテリアプリマ)と呼ばれ、そこでは仕分け、計量、ほぐしの工程が行われる。

葉の仕分け(Empaquetado:エンパケタード)、葉の計量(Pesaje:ペサーヘ)の後にサファドが行われ、ブレンド室に送られマスターブレンダーであるLigador(リガドール)の指示でレシピ通りに正確に葉が組み合わせられる。

収穫された畑、葉の品種、葉の部位、熟成させた年数等で分けられた原料から、それぞれを何%という指定で数多くの組み合わせが作られ、それが葉巻一本一本の材料として用意される。ブレンドのレシピは非公開で、厳重に管理されている。ブレンド室には通常の職人は入室が許されない。

■巻き上げ

熟練したトルセドールほど前方の席に着席する。

 

全ての準備を終えた葉は工場のワンフロアのほとんどを占めるGalera(ガレラ)へ運ばれる。ここでTorcido(トルシード:葉巻を巻く作業)が行われるのだ。トルシードの職人をTorcedor(トルセドール)、女性を Torcedores(トルセドレス)と呼ぶ。
彼らはLector(レクトール)が読み上げる本や新聞に耳を傾けたりしながら、黙々と葉を巻き上げていく。1日のノルマは50本である。

原始的な道具だけですべて手作りしていく。

 

トルセドールは熟練度により階級が分けれており、上級者はダブルコロナやピラミデなど大型のシガーを巻く。初級者は小型のビトラを任される。それぞれにブレンドごとに分けられた葉が入った袋が渡される。

Tabla(タブラ)という木製の板の上でフィラーを巻き、2枚のバインダーで包む。力を均一に、ねじったりよじれたり巻きすぎたりしないように、形を整え、細心の注意を払って素早く巻き上げる。
この状態をBunch(バンチ)といい、これを木製の鋳型に入れ込み、蓋をしてプレスにかける。これにより形が固定され、ラッパーを巻く工程へ進む事ができる。

バンチにラッパー用の葉を当て、Chaveta(チャベタ:半月型の小さなナイフ)で葉をカットして形を作り、バンチに巻く。Goma(ゴマ:無味無臭の植物性糊)で貼り整え、Casquillo(カスキージョ:弾薬筒の意味。キャップを作るためにラッパーから葉を円形に切りとるための大きめのパンチカッター)で作った葉で先端を包みキャップとする。仕上げに手で微調整して葉巻が巻き上がる。この状態の葉巻は非常に柔らかく、弾力に富んでいる。

■検査

カタドレスたちが巻き上がったシガーを厳しくチェックしていく。

 

Catadores(カタドレス:検査人)は無作為に各トルセドールに紐づいた葉巻を50本抜き出しリボンで縛り束を作る。50本の束はMedia rueda(メディア・ルエダ)と呼ばれる。

サンプルの葉巻はカタドレスに長さ・重さ・直径・外見などをチェックされる。不適格な葉巻が一定量出てしまうと、さらに検査が進められる。
無作為に抜き出された2本を分解し、巻きを調べられる。1本でも巻きが悪いものがあると、3本目を抜き出し調べる。3本目に問題がなければ合格だが、それも駄目であればその職人の葉巻はばらされてしまう。

この際使われる道具のひとつの定規はCepo(セポ)と呼ばれ、リングゲージと同義にも扱われる。また、カタドレスは毎日葉巻の味もテストする。

ずらりと並んだシガー。ここまでくればほぼ完成。

 

トルセドールは巻いている葉巻がどのブランドの何なのかは知らされておらず、分かるのはビトラだけであるとされているが、実際には教えられている場合が多い。特に熟練の職人は事前に聞かされている。それぞれに割り当てられた葉は区別されており、間違えて別のブランドに混ざってしまうという事はない。

検査を通過した葉巻は、Escaparate(エスカパラーテ)へ向かう。杉でできた棚が並ぶ、室温16~18℃、湿度65~70%に調整された部屋で、ここに1週間以上安置し、巻き上げの際に与えられた湿気を抜き、組み合わされた葉が時間をかけ安定化・均一化するのを待つ。

■箱詰め

白色灯の下で細かく色を分別する。女性職人の仕事だ。

 

エスカパラーテを出ると、Escogida de colores(エスコヒーダ・デ・コロレス)が待っている。巻き上がった葉巻の色を、明暗や濃淡で選別する作業だ。白色光で1本1本確認し、67種の色味で選別される。このカラーグレーディングはCamada(カマダ)と呼ばれ、並べた葉巻の列の意味もある。
これを葉巻の色が箱の中で映えるよう明暗を考え、箱に仮詰めしていく。色は右に向かって明るい色になるよう非常に微妙なグラデーションとする決まりがある。

箱もひとつひとつ手作りされる。作り方は細かく指定されており、気が抜けない。

 

箱は別の部屋で事前に用意される。
ブランド・種類ごとに用意された箱にFilete(フィレーテ:箱の四隅に貼られる装飾の紙)を貼り、Cubierta(クビエルタ:箱の蓋の上面)に刻印を押したり紙を貼るなど、装飾を施す。これら紙製の縁飾りはHabilitacion(ハビリタシオン)と呼ばれる。
箱の底にはHierros(イエロス:Habanos S.A.、Hecho en Cuba、Totalmente a manoの焼き印)が入れられる。

箱に仮詰めされたシガーにリングをつけていく。順番を変える事は許されない。

 

次の作業を担当するのはAnillado(アニジャード)だ。仮詰めされた葉巻にブランドのトレードマークであるリングを巻きつけていく。エスコヒーダで分類された色を崩してはいけないので、1本ずつゴマで貼り付け、決めた通りの場所へ置いていく。

作業はTerminado(テルミナード)へ移る。 ここで完成した葉巻を箱詰めしていくと同時に、最終チェックに1本1本の検品が行われる。箱は閉じられ、Tapaclavos(タパクラヴォス)と呼ばれるラベルで箱を閉じた釘を隠す。

最後にEmbalate(エンバラーテ)へ移り、ここで箱詰めまで終了した葉巻がカートン詰めされる。

箱の底に押印されるスタンプ。昔のように暗号化はされておらず、簡単に読み取れる。

 

こうして葉巻は工場を離れ、世界中の大卸・卸業者の手を渡り、Habanos S.A.正規販売店であるLa Casa del Habano(ラ・カーサ・デル・ハバノ)や平行して葉巻を扱う葉巻販売店へと並べられ、私たちの手に届く。


2021-06-26 更新