葉巻人|麦野 豪

2016-04-29

 

「シガートレイを作っちゃったんです」

会うなり、麦野さんはそう言ってシガートレイを見せてくれた。

麦野さんが代表取締役社長 兼 CEOを務める「リヤドロ」というと、根強い女性ファンの多いポーセリン(磁器)アートブランドという印象があるが、実はここ数年でライフスタイルにこだわりを持った男性ファンを急速に増やしているという。

麦野さんが就任したのは3年前。ブランドのリポジショニングに取り組み、世界的に有名なデザイナーとのコラボレーションや、馬をモチーフにした作品への注力など、男性顧客へ受け入れられるような作品を矢継ぎ早に展開し、ここ2年で日本市場がアメリカを抜いて世界第1位となった。

そのような中で、麦野さんのリヤドロ本社へのリクエストもあり、今回新たにシガートレイが登場したという。

「これ、いくらだと思いますか……?」

同席者の中には「リヤドロなら40万円くらい?」という声も上がる。

「8,000円なんです」と答える麦野さん。

これはまた売れそうな気がするお手ごろな価格だ。

 

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よくあるシガートレイと一線を画す、気品を讃えたリヤドロの逸品。

 

磁器の素材が引き立つ白いシガートレイには、リヤドロのロゴのモチーフが隠れている。

2本用の手頃なサイズのシガートレイは数が少なく、デザインはシガーバー以外でもレストランやカフェでも映える非常にエレガントなものになっている。

 

また、ブランドリポジショニングに取り組む中で注力を入れてきた馬作品の中で、特に話題になったのが昨年の4月に登場した伝説の名馬「Deep Impact」だ。

「競馬ファンならずとも知っているDeep Impactですが、実は今までその姿を再現したものがなかったそうです。開発は非常に困難を極める作品でしたが、現役の姿を再現したこの作品は、お蔭様で半年間の売上がリヤドロの歴史上最大の売上を記録しました」

こちらもまた今年、新たに新作が登場するというから期待したい。

 

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実際に採寸から制作された「Deep Impact」。凛々しいその姿は今にも動き出しそうだ。

 

「実はロイヤルオークのシガーカッターもあるんです」

そう言って、麦野さんはパンチカッターを見せてくれた。

径の違う3種類の刃がついた、スライド式のパンチカッターだ。ロイヤルオーク オフショアのケースを作っている工房へ発注し、作らせたものだという。腕時計のサイズと同じ大きさという造りの細かさだ。

 

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ロイヤルオークのパンチカッター。非売品だ。

 

現在リヤドロ・ジャパンの代表を務める麦野さんは、オーデマ・ピゲ ジャパンを立ち上げ同社代表としてブランドイメージの若返りに手を尽くしてきた。

「時計業界のやり方を全部変えましたね。F1、ヨット、ゴルフ分野でプロモーションを行い、銀座の中央通りにビルを建てました。

そこの9階にシガーサロンを作らせたりしました。VIPのお客様しか通さないサロンです。壁をくりぬいて、据え置きのヒュミドールを入れました。

内装は森田恭通さん。いつも営業しているわけじゃないのですが、シャンパンは常に置いていましたね。でも食事ができるわけじゃないので、出前なんかを取っていましてね。好評だったのが鰻。ひつまぶしとシャンパン、そしてシガー。これがなかなか好評でした。

オフショア一本くらいでは入れなかったので、『どんだけ高いんだここは』と噂になりましたね(笑)」

 

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今回火をつけてもらったのはコイーバのシグロⅥ。オーデマ・ピゲでは、 VIPのお客様用にオリジナルのダブルリングを付けてお出ししていたという。

「王道ですよね、シグロⅥは。常に期待を裏切らない。最高のバランスで、このアロマが安らぎを与えてくれる。

僕がおすすめしているシガーの楽しみ方があってですね、コニャック、ルイ13世なら最高。それかあまり香りのきつくないシングルモルト、それと生チョコ。と、マルコポーロの紅茶。

シガーをね、吸うじゃないですか。で、お酒を飲むでしょ。すると、口の中でシガーのビターな後味とお酒が混ざり合いなんともいえない味わいになる。そこに生チョコを放り込むんですよ。生チョコの甘さが全てを包み込んでまろやかになる。口の中がシガー、お酒、チョコレートで複雑になったところを、マルコポーロの紅茶で一気に流してやる。

そうやってリセットして、もう一回と繰り返す。絶妙なマリアージュなんです。これ、みなさんにおすすめしてるんですけれど、気に入ってくれるんですよ」

 

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麦野さんいちおしの組み合わせ。納得のマリアージュだ。

 

シガーの楽しみ方にもこだわりを持つ麦野さんに、シガーを始めたきっかけをお聞きした。

「単純なんですけれど、タバコをやめたからなんです。12年くらい前にタバコをやめて。切り替えようとしたというか、たまたまです。

オーデマ・ピゲに入るか入らないかくらいのころ、仕事のメインがヨーロッパだったんですよ。その前はモンブランだったので、ドイツで。であっちは、やっぱりタバコの文化じゃないじゃないですか。完全にシガー文化ですから。だから何かシガーってカッコいいな、って思って……タバコを吸っていたからシガーをすすめられるんですけれど、吸い方が分からなくて。肺に入れちゃうんですよ、最初だから。

ちょうどそのころ家内と出会って、その後電撃的に結婚する事になるんですが、付き合ってた頃はタバコについてはそんなに言われなかったんですが、結婚してほしいと言った瞬間に『じゃあタバコやめてくれ』って言われて。それが条件だと。それはやめなきゃいけないな、と(笑)。 幸いシガーはお許しを得ていたんで、あ、これはやっぱりシガーに入ろうと。それが始めるきっかけですね。

ヨーロッパで世界中のオーデマ・ピゲの幹部が集ったりすると、当たり前のようにシガーが出てくる。ジュネーブサロンっていう時計の発表会が毎年あるんですが、昼間はフェアをやって、夜はパーティをやるんですよ。大きい会場を借りて、そこでシガーが振る舞われる。ちょうどタバコをやめる頃、移行期間でニコレットも使っていたんですよ。タバコを吸いニコレットを噛み、隣ではもうもうとシガーの煙が立ち昇って自分でもシガーを吸う。もうすごい状態でしたね。全身ニコチンまみれみたいな(笑)。そこからシガー一本にしぼりました。

 

僕らが小学校の頃って、いわゆるホワイトカラーってタバコ吸ってたじゃないですか。挨拶したら『タバコどうぞ』って。昔は偉い社長もタバコ吸ってたじゃないですか。でも今は偉い人はシガー吸ってる。

僕は新入社員の頃、最初は商社に入ったんですけれど、デスクでタバコを吸えてたんですよね。今ではあり得ないですけれど。

毎朝新入社員の仕事って、テレックスをちぎって配るんですよ。印字するんですよ、紙にね。あれって感熱紙なんですよね。読んでるうちに自分のタバコで真っ黒になって煙が上がってきて(笑)そういうこともあったなあ。昔は飛行機でも吸えましたからね。不思議な時代でしたよね」

 

「シガーに落ちついて振り返ってみると、タバコって、吸っているというより『吸わされていた』んですよね。タバコに吸わされていたんです。なんていうか、支配されていたんですよね。それはニコチンでもあり、行為に中毒しているというか。食事したらすぐタバコに火を付けなきゃいけない、そういう習慣が病気なんですよね。

そこには自分の意志がなくなっていたんですよ。で、タバコとシガーで絶対に違うのは自分の意志で吸うかどうかじゃないですか。

あとはシガーを吸うロケーションって、だいたいがものすごく楽しくて、そのまま帰りたくなくてシガーを吸いに行こうかっていうケースか、ものすごいハードな仕事をこなしたあと、そのまま家に帰ると頭の中がテンパってて、眠れないから一回リセットしに行こうか、そういう感じで。さっきアロマってキーワードが出たじゃないですか。その通りで、これは精神安定剤みたいなのがね、出てるんですよ。落ちつくのが」

 

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「月に吸う量は、ケースバイケースですね。最近結構忙しくて、気軽に吸えるダビドフの缶入りシガーをいつも懐に入れてます。食事に行ったりして、シガーを吸う方たちじゃないと気軽に『シガー行こうか』ってなかなか誘いづらいじゃないですか。でもこれなら、バーとかに行っても軽く吸える。

なので出張のときなんかは何箱か持って行きます。地方だと喫煙できる所が多いじゃないですか。でも、逆に地方にはあまり売ってない。売っていてもタバコ屋さんとかだと保存状態が悪くて困る事もありますし。今日は行くだろうな、というときはちゃんとシガーを持参します」

 

「自宅ではクーラーボックスをヒュミドールとして使って、シガーを保管しています。箱ごと入るし、状態も良いままキープできますからね。その中に、コップにヒュミビーズを入れて蒸留水で浸して使っています。

自宅ではホームパーティをやるときなんかにシガーを楽しみます。自宅はキッチンとリビングとベランダテラスを段差なくフラットにしてあります。テラスは照明とBOSEのスピーカーを設置しているので、女性たちは中で、男どもはテラスに連なってシガーをみんなでガーッと吸う、と(笑)」

 

本当にシガーを楽しんでいる、という気持ちが伝わってくる麦野さん。自宅以外でシガーを楽しむお気に入りの場所を教えてもらった。

「ずっと仕事が銀座なんですよ。なぜか銀座7丁目にすごく縁がある。その周辺で地下に降りるバーがあるんですが、バーカウンターしかないお店なんですよ。妙に落ちつくお店で、そこのモヒートが僕は日本一旨いんじゃないかと思ってるんです。

ある雑誌の取材でそのことを言ったんですよ。キューバの砂糖とアップルミントを使ったモヒート。そしたら天現寺のブリッヂの八木さんから電話がかかってきて、「麦野さん、くやしいなあ、日本一のモヒート、うちじゃないんですか」って。あちらが立てばこちらが立たず。難しいなあ、って(笑)。

ブリッヂも素晴らしいんですが、必ず知り合いの方がいらっしゃる。ので、ハードな仕事の後でひとりでゆっくり一服したいときとか、あるじゃないですか。そういうときはそこに寄りますね。なので、お店の名前は伏せさせていただくという事でお願いします(笑)」

 

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さて、最後の質問。麦野さんにとってシガーとは?

「先ほどお話しした通り、僕のシガーを吸うシーンはふたつなんです。ひとつは楽しいときにシガーを吸ってもっと楽しくなるというひとつの触媒であり、もうひとつはリセットしてくれるものすごく大事なツール。そういうときって、大きい仕事をしてるときなんですよ。大きい仕事して、すごくテンパってるじゃないですか。テンパってて、で達成感があって、でもこのまま家に帰ってももう遅いし誰も起きてないし、このまま寝れないな、っていうとき。あるじゃないですか、アドレナリンが回ってカーッとなっているとき。そんなときに、一本いこうかってなるんです。そういうときに、欠かせない人生の中の『存在』なのかなと思います。

仕事や家族、会議のスケジュールも分刻みで、自分の時間ってなかなか取れないじゃないですか。でもシガーを吸う時間って、唯一『自分のためだけに』時間を割いている。それって、自分にとってはすごく贅沢な時間なんです」

 

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「最近では時間を見つけては馬に乗っています。海外でもゴルフ場へ行ったりするのとともに、乗馬ができる場所を探すようになりました。気候がよくなったら馬に乗って乗馬をしたあと、森の中で馬を眺めつつシガーを吸ったら美味しいでしょうね」

麦野さんが発起人のひとりとして携わっている東京クラシックにも、そういった場所をつくりたいという話をしているそうだ。

バリバリと仕事をこなすとともに、ゴルフ、乗馬、シガーと趣味を深く愛する。カントリージェントルマンは楽しそうにそんな話を語ってくれた。

「次回の指名ですが、バルニバービグループの代表、佐藤さんのお話を聞きたいと思います。シガーにこだわりのある方なんですよ。楽しみですね」

 

麦野 豪(むぎの ごう)

1965年生まれ。1994年、MBAを取得後、日本の総合商社のシカゴ支社に3年間駐在。1998年より、外資系企業数社において、営業、マーケティング業務に携わる。2005年3月、オーデマ・ピゲ ジャパンの代表取締役兼CEOに就任。現在、リヤドロジャパン株式会社代表取締役兼CEO。

 

 

ハバナベガス

西麻布の一角にひっそりと建つシガーバー。

建物全てがバーであり、一階はキューバのモヒートの名店「ボデギータ・デル・メディオ」をイメージしたカジュアルなスタンディングバー。

二階は会員専用のシガーバーで、ハバナのホテルバーをイメージして作られている。

葉巻のソムリエ「シガーコンセイユ」日本一となったオーナーバーテンダーがキューバから買い付けた葉巻が提供される。

事前に御予約されることをお薦めいたします。

 


Text by Tatsuya Igarashi:Twitter FaceBook