葉巻人|天野七音

2016-08-01

人は自分の好きなものを語る時、饒舌になる。当たり前である。その魅力を教えたい、そしてその楽しみを知っている同士からは自分の知らない事をいろいろ教えてもらいたい。だから、スモーカーはシガーの話に尽きない。

 

シガーをやりながらの話であれば、なおさらである。天野七音さんも、そんな方だ。皆それぞれ、オリジナルのシガーにまつわるストーリーを持っている。シガーに火をつけ、その煙に相好を崩し、お話を聞かせてくれた。

 

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「もともと僕はアパレル会社の広報宣伝部にいて、そこでブルーノート東京の立ち上げなんかをやってたんですよ。28年前ですね。その当時は僕も若くて。そのころ流行ったのが、アパレルメーカーがよくやるライフスタイル提案のはしり。いろいろあったじゃないですか、アパレルメーカーがバーをやったりレストランをやったり。

それこそ乃木坂で倉俣史郎さんのバーとか、いろんなジャンルの飲食店をやってる中で、ニューヨークのブルーノートを、世界で初めて外国で、それも日本でやるというチャレンジでした。

その無謀とも言えるチャレンジを決断したのが、当時在籍していた会社の2代目です。(現 ブルーノート•ジャパン 代表取締役)彼とはずっと学生時代からの親友でもあり、気心が知れていたので一緒に頑張りましたね。あれは自分の人生の中でも、センセーショナルな出来事でした。

そのときはオープニングがトニー・ベネットでした。ニューヨークのブルーノートが送り込んできて……今考えても無茶苦茶ですよね(笑)

当時僕も20代でしたけれど、あの思い切りがあったからこそ、いわゆる異業種の我々がそういうムーブメントを起こせたんじゃないかと思います」

 

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トニー・ベネット。アメリカ最高の男性ボーカリスト、エンターティナー。

 

「実は僕は葉巻は割と後になってからなんです。

40代前半で、在籍していたアパレル会社は営業譲渡して、ひとつの転機が訪れたんですよね。いったん会社を辞めて、自分で会社をやるのか、考えつつブルーノート東京を手伝いつつ、丸の内のコットンクラブの立ち上げのメンバーもしつつ……HACCIという蜂蜜の会社の社長と出会ったのもその頃です。

自分の中でサラリーマン人生がひとつ区切りというか終わりがついて、一応フリーでプロモーションの手伝いとかスポンサーの誘致や、HACCIも徐々にやりつつ。二足のわらじなのか三足のわらじなのかよくわからなかったけれど、それがフリーランスとしての面白みなのかな、と始めていました。

 

そんな中で葉巻と出会ったんですが、きっかけはお酒からだったんです。

その当時、ブルーノート東京やコットンクラブでスポンサーの窓口をさせてもらっていたんですが、ビールはキリンさん、ウイスキーはサントリーさん、シャンパンはモエヘネシーさんとご協賛頂いてましてね。そこで『お酒』というものに対して、新たな視点で付き合うようになったんです。もちろんそれまでもお酒は好きでしたけれど、サントリーの方から、『ウイスキー』の美味しい飲み方や、年数による飲み比べなんかを教えてもらったんですね。そこから、お酒の熟成年数や樽による違いを味わうようになりました。

 

で、自分の食事のスタイルやお酒のスタイルがそこから変わってきたわけですよ。ウイスキーやシャンパンを見る目が変わって『こんなに美味しいものがあったのか』と。

振り返ってみて、じゃあ今まではどうお酒と付き合っていたのかな、バーで何して遊んでたのかな、っていう。

以前はグループで行ってワイワイ楽しんでいたんだけれど、ぷらっとひとりで行ってモルトのウイスキーを味わう、そういうふうに変化していきました。

そういうときにふっと、たまたま知り合いがいたバーでシガーに出会ったんです。

シガーをやってる姿がああ、かっこいいな、という憧れから入って、じゃあちょっと吸ってみようかって。もともと僕はタバコは吸わないので、『ふかす』ということに抵抗がなくすっと入り込めました。

 

最初は多分……かっこつけと言うと変だけれど、スタイルから入っていったんですが、ウイスキーをじっくり飲みながら、ウイスキーの『アテ』じゃないですけれど一緒に味わうシガーの楽しみにすぐにのめり込みました。

早くから自分好みのシガーも見つけたのも、それに拍車をかけました。

Partagas Serie P No.2が好きなんです。特に好きなのが、このシガーの根元ですよね、最後のあたりの。

終盤あたりまでまで吸い進めたとき『あれっ!?』って。何か、こうひとつの吹っ切れた感と言うか、ああこの感じ好き!っていう。自分の感覚にぴったりとはまったんですよ。

これをまたもう一回、もう一回、っていうね。シガーをやりはじめた当初はそれにとりつかれて、週に何回もバーに通って吸いました(笑)今も大好きですけれどね。

Facebookがシガーの写真だらけで、『お前葉巻の写真しかないな』って言われてます(笑)

 

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愛するシガー、パルタガス セリーP No.2とセリーE No.2。

 

やはり一番好きなシガーはP2です。ただ、今はPartagas Serie E No.2ですね。僕の感じとしては、E2の方がP2よりも少しまろやかなんです。D4はP2と同じラインだと思うんですが、やや物足りない。

他にもコイーバ、モンテクリストもやりますが、やっぱりパルタガス派ですね。

ウイスキーを味わうようになってシガーもすっと入っていったんですが、ウイスキー好きが高じて、このあいだヴェネツィアのムラーノ島へ行ってきました。

ヴェネツィアングラスで有名な所なんですが、そこに行って自分のウイスキー用のグラスを買ってきました。

あまり自宅では飲まないんですけれど、テラスがあるので本当に吸いたいなあ、って思う時は自宅バー『あまやん'sBAR』を開店していますね(笑)

シガーの保管に家では黄色のCohibaのヒュミドールを愛用してるんです。香港で買ったんですよ。

ここは不定期開催なんだけれど、みんな行きたいですって言ってくれるんですよね(笑)ラガブーリン16年なんかでゆっくりやるのが好きですね」

 

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自宅用のヒュミドール。黄色がビビッドなコイーバだ。手前はお揃いのコイーバのシガーケース。

 

そんな天野さんがシガーを楽しむ、お気に入りのお店について聞いてみた。

 

「西麻布の『ブロス』っていうお店によく行きます。いいカウンターがあるんですけれど……僕は『メンズバー』って呼んでます。入るといつもだいたい5、6人男がシガーを吸ってるんですよね(笑)

あと、麻布十番の『(すみか)』というバーなんですけれど、ここはウイスキーの種類が豊富でマスターのディレクションがすごく良いんです。もちろんシガーもOKで。

そんな風に、マスターとウイスキーやシガーの話をしながらバーを楽しむライフスタイルに変わってきてるので、生意気かもしれませんが趣味は?と聞かれたらサーフィンとシガーです、と答えています(笑)

サーフィンも40代からですかね……学生時代にちらっとやりましたけれど、サーフィンもその辺りからでしたから。

趣味なんていつ始まるか分からないですけれど、シガーに関しては本当に出会って良かったな、と思いますよ」

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愛用のシガートレー。パリの蚤の市クリニャンクールで入手した。エルメス製。

 

シガーにより生活の楽しみ方、ライフスタイルも変化していったという話はとても興味深い。そんな天野さんにシガーをはじめてからの考えの変化についても伺えた。

 

「フリーランスになったりハッチの役員になったり……やり方や考え方、今までとちょっと違う仕事のしかたをするようになったじゃないですか。ジャッジする事が多くなったり、体を動かしてどうこうというものじゃなく、判断する事だったり精神的な部分の責任の重さだったり。

そういう自分の中で溜まった部分をふーっ……と抜く。シガーの煙とともに。お酒を楽しみながらね。そういう、クールダウンする時間のすごし方の部分が変わったと思います。

ぼーっと考えたり、逆に頭の中を空っぽにしたりする事ができるんですよね。そういう時間は大切だと言われますが、シガーと一緒だとそれができる。それで作れるようになりましたね。無の状態が。

ハワイに行って海を見たら落ちつくんですが、あの波いいねとかちょっと入りたいねとか、結局何か考えちゃってるんですよね。無どころか欲が湧いてくる(笑)

仲のいい人がシガー吸ってるときに加われば楽しく話が弾むし、リラックスして話もできる。こういうふうに喋りながらながら気付く事って、いろいろ多いと思うんですけれど、そう、『無』ですね」

 

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今回、パルタガス好きの天野さんに吸っていただいたPartagas Anejados。こちらも非常に気に入っていただいたようだ。

 

多くのスモーカーと話をして、意識的にも無意識的にも出てくるのはシガーをうまく「活用」しているところだ。深く施策するための羅針盤であったり、逆に完全にリラックスするための触媒であったり。シガーを愛する人は、シガーをシガー以上の何かとして愛用している。そしてそれを愉しんでいる。天野さんもそのひとりだ。

そんな天野さんにとって、シガーとは一体どのようなものなのかを聞いてみた。

 

「難しいなあ……。シガーって嗜好品って感じがあるじゃないですか。それがまず最初に浮かびますよね。それも究極の嗜好品。

生きるための食じゃない。変な話なくてもいいんだけれど、けれどなくてはならないもの。なくてもいいんだけれど、なおさらないと困るもの。究極の矛盾ですよね。でも、贅沢品という言葉はあまり使いたくない。

 

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人生終わるときに何したいですか、と聞かれてステーキを腹一杯食べたい、寿司を腹一杯食べたい、どこどこ行きたいなんて、いう欲はもうあまりないんですよね。そっちじゃないんです。

うまい酒飲んでゆっくりシガーを吸って、あー俺の人生面白かったなぁ、あーこれうまいなあ……ってばたんと死ねたら最高かな、なんて(笑)

欲っていうものが40半ば、50になって変わってきたかな、と気付きましたよね。そういうときにシガーに出会えて良かった、本当にそう思います」


 

天野 七音(あまの なおと)

1960年生まれ。現在、HACCI’s JAPAN.LLC C.O.O.

アパレルメーカーのプレスを経て、ニューヨークのブルーノートを本店に持つ「ブルーノート東京」や「コットンクラブ」のローンチに携わる。

アパレルメーカー退職後、フリーランスを経て蜂蜜ブランドのHACCI’s JAPAN.LLCに入社。ファッション、エンタテインメント、飲食、食品、コスメと幅広いジャンルを経験している。

 

ハバナベガス

西麻布の一角にひっそりと建つシガーバー。

建物全てがバーであり、一階はキューバのモヒートの名店「ボデギータ・デル・メディオ」をイメージしたカジュアルなスタンディングバー。

二階は会員専用のシガーバーで、ハバナのホテルバーをイメージして作られている。

葉巻のソムリエ「シガーコンセイユ」日本一となったオーナーバーテンダーがキューバから買い付けた葉巻が提供される。

事前に御予約されることをお薦めいたします。

 


Text by Tatsuya Igarashi:Twitter FaceBook