葉巻人|池上俊雄
2016-06-30
「もともと僕はファッションショーのイベントプロデューサーをやってるんです。基本大阪なんですが、今は手がけているイベントの開催中で、東京に泊まり込みなんです」
池上さんはそう言いながら微笑んで、シガーに火をつけた。手にしているのはパドロン ダマソ。日本では未だ販売されていない、2015年夏にリリースされたシガーだ。
パドロンがお好きなのか聞くと、首を振って答える。
「いや、パドロンは大阪で売ってないからなんですよね。いつも僕はコイーバばっかりで、シグロ2とか3なんです。
僕の勝手なイメージですよ、パドロンって東京でしか吸った事がないから東京ってイメージなんです。東京に来たから東京のもの食べよう、って感じなんですよ(笑)」
買ったばかりだという持ち込んだシガートレイにシガーを置く。目をひく和風のシガートレイだ。
「シガーに使う喫煙具を集めるのが趣味のひとつなんです。東京に来て、シガーを買いに行ったら気に入っちゃって。シガートレイで和のものってなかなかないんですよね。話に聞いたら、これは使っているうちにだんだん色味が変わるらしいので、楽しみなんですよ」
「シガーをはじめたのは15、6年前ですかね。昔は、自分がシガーなんかやるとはまったく思ってなかったんですけどね(笑)
はじめてシガーを見たのは大学生のとき。あるメンズのファッションショーで最終のシーンでね。団時朗さんや草刈正雄さん、大阪のトップのモデルさんが出られてたショーでした。
そのシーンで何人かがタキシードを着て、それぞれ帽子をかぶってステッキを持って葉巻を持ってみたいな演出でした。そのときシガーは分からなくて、あれは何なんやろな?って思って。そのとき小道具的に使われていたのがシガーを見た最初だったんです。あれは印象に残っているなあ。
たまたまそのとき出たモデルさんを知っていたんで、あれは何なんですかって聞いたら『葉巻や。ボクはやってないんだけど』ショーの小道具に使ったんだよ、って。
シガーというものをそれで認識しましたね。ただ、吸っている人を見た事がなかったんですよ。
それからだいぶ経ってから、京都のホテルで仕事があったときに、夜遅く入ったらホテルのロビーのあたりでおっきい葉巻を持ってもくもく煙を立ち昇らせてるごっついでかい人がいたんですよ。
シルエットだったんですけど、でっかい人だな、誰やろ?と思ってよく見たらジャイアント馬場さんでした(笑)
その香りをかいだときは『うわくさいなあ、こんなんなんでしてはるんやろう』っていう印象でしたね(笑)35年かそれくらい前だったと思います。
そういうことで、シガーに対するファーストインプレッションはあまり良くなかったんです。映画の中でのイメージが強くて、ジャン=ポール・ベルモンドが燻らせているのを観て印象的だったんですけど、映画では香りまではわかりませんからね」
そこまでイメージはよくなかったのに、手に取りやがてシガーを嗜むようになった池上さん。
「ファッション系の仕事でしょ。小道具で用意したり、身近にはあったけどそんなんやったらオッサンみたいなイメージがあったんですよ(笑)業界性からか、周りにやってる先輩が結構いて、結局いつの間にか手をつけてたんですよね(笑)
業界の先輩がやってたから自分もやらないとな、というところから入ったと思うんですよね。
あるとき飲みに行ったときに、『葉巻はしないんですか』って聞かれて『知ってるけど吸った事はない』って答えたら一回やりましょうという話になって。
そこでシガーについて色んな事を教えてもらって……でも身につけるようになったのはそこからずいぶん後の話なんですけどね。けれどこれが最初のきっかけだと思います」
シガートレイとジカーのVカッター、シグロのライター。ライターは夏のイメージで白。
「シガーを吸うペースですか……僕は佐藤くんみたいなヘビースモーカーじゃないから(笑)一晩2本くらいと決めてるんで、月に10本くらいかな?あれ?でもそんなに吸ってないですよ(笑)
ひとりで飲みに行くときは手持ち無沙汰になるからシガーは手放せないですよね。連れ合いみたいな感じかな。
大阪はね、吸えるところが少ないんですよ。有名どころだとスーペルノーバさんとか。
大阪でシガーを一緒にやる友達が何人かいるんですけれど、だいたい仕事が終わってから食事して、シガーバーかシガーをやらせてくれるお店に行くんですが……変な事やるんですけど、ドラマの『相棒』ってあるじゃないですか。あれの最後のシーンに、綺麗なママさんがいる小料理屋さんが出てくるじゃないですか。そういうお店を見つけよう、それで葉巻を吸っても許してもらえる上客になろう、という遊びをしています。周りのお客さんにも気を使わなくちゃいけませんから、なかなか難しいんですよね。そんなお店はまだ見つかっていません(笑)
シガーを吸うお気に入りの場所は、大阪のミナミにあるんですけどね。タワーマンションの一室にある『ル・サロン 2100』のオーナーが僕の後輩なんで、しょっちゅう行ってるんですよ。
ここのVIPルームは全面大阪の夜景が見えて、すごく綺麗なんですよ。おすすめです」
シガーの楽しみ方、アプローチの仕方は人それぞれだ。だからこそ面白い。シガーの煙とともに、話題は過去へ未来へどこまでも広がっていく。
「シガーにまつわるに思い出深いエピソードはですね、佐藤くんです。彼は人間として心持ちがすごくホットな人で。後輩とは思ってませんから、先輩くらいのイメージで見てるんですけどね。彼としゃべってるとすごい元気になるし。
僕が50歳になったとき、自分のお店でシークレットパーティをやってくれたんですよ。
で、60になったらまたサプライズでやってくれた。100人くらい友達が来てて、それで佐藤君がくれたお祝いの葉巻がね、箱にこんなにガバーッ!て入っててね(笑)
ごっついでかい葉巻も入ってて、それだけは吸うのがもったいないからずっと家に置いているんですよ。
そのパーティで自らギターを弾いてくれてね。葉巻のイメージっていうとボクの中では佐藤君なんですよね」
池上さんにとって、シガーとはどのような存在なのだろうか。
「ずっとファッションの仕事をやってきました。服とか靴とかバッグとか、高級ブランドの仕事もいっぱいやってきたんですが、それを持つ事に対する欲望は少ないんです。あんまりこだわってなくて。
ただシガーをやりはじめてから、喫煙具とかを夏になったら白にしようとか、シガーグッズを探して集めるのがすごく楽しいんですよ。一日シガーグッズを探し求めてふらふらしてるときもありますし。
シガーはね、リラックスするひとつのツールだと思ってるんですよ。それをお洒落に楽しむときに、満足感を感じるんです」
「まだシガーを知らない頃、新地で横にシガーをくわえてるおじさんがいて、くさいなと思ってたら帰るときにそこの飲み代払ってくれてたりとか、そういう遊び人がたくさんいたんですよ。
で、業界に入ってから、物真似じゃないけれどそういうふうになりたいな、と思ったんですよね。一緒に仕事した若い子に初めての葉巻を教えたりするのも、楽しい時間なんです。
最初はファッションでやっていたけれど、気分が落ちつく。タバコもやっていたけれど葉巻をやるようになってすっぱり吸わなくなって、しんどさが全然違うしね。
何でもそうだと思うんですけれど、人真似からちょっとずつ自分のものになったのかなあと思いますね」
池上 俊雄(いけがみ としお)
1954年生まれ。株式会社ネクスト・ダッシュ代表取締役。
ファッションプロデューサーとして大阪コレクション、神戸コレクション、東京ランウェイなどを手がける。
その傍ら、参加人数200人で始まり、1万人を超える規模にまで成長した「OSAKAグレートサンタラン」の発起人としてチャリティーでも活躍。一般社団法人OSAKAあかるクラブの専務理事にも就き、幅広く活動している。