葉巻人|山田俊夫
2016-11-29
シガーナビは「等身大のスモーカー」がテーマのひとつだ。
シガーというものはハードルが高く、とっつきにくいものだと思い込まれている日本で、もっと親しみやすく、気軽に楽しめるものであると伝えるためである。
そのためコラム「葉巻人」も様々な分野の方に広くお話を伺っている。今回の山田さんも、読者が親近感を覚えるスモーカーだ。
シガーナビ、見てました(笑)
シガーナビは、結構前から見ていたんですよ(笑)。ネットで色々シガーの検索をしていて、カッコいいなこれ、と思って読んでました。高橋さんがそれに出るって聞いて、ええー?ってびっくりしましたよ。バー ソウル ビーのつながりで知り合ったんですが、もっと驚いたのは自分がインタビューを受けるのが決まった事ですね(笑)。
気分で足が向く、行きつけのバー。
だいたい行きつけのバーは、3軒ほどあります。
いつもシガーを吸いに行くのは、バー ソウル ビーと、自宅が近いエリアにあるので、東中野のシガーバー、スモークソルト。有名店ですよね。ここでは大好きなスコッチウィスキーとシガーを楽しむことが多いのですが、マスターがシガーの進み具合に応じてお酒を選んでくれます。シガーの根本ではコニャックやカルバドスなんかも合うんですよね。
あとは新宿に会員制のバー翔湖というお店があります。ここはヒュミドールを置いていないので、いつもシガーを持ち込んで、ピアノの生演奏を聴きながら楽しんでいます。
いつも持ち歩いているシガリロ用のケースと、シガリロ用のアッシュトレイ。
きっかけは、あのトラブルから。
シガーを吸うきっかけになった事があるんですよ。
僕はIT・コンピュータの会社で、プロジェクトマネージャという仕事をしているんです。ざっくりいうと、顧客のコンピュータのシステムを構築するプロジェクト全体の責任者です。
もう10年以上前の話なんですけれど、僕が担当するプロジェクトがトラブルを起こしてしまい、それで客先に謝りに行かなきゃならない、ということがありまして。会社の上層部を連れて、謝りに行くことになったんです。
営業が顧客のオフィス近くのホテルに会議室を借りて、そこで直前まで上層部とこんな説明をしよう、こんな謝罪文で、なんて打ち合わせをやって。
こっちは徹夜でギリギリまでトラブルの対応をしてから、報告書の内容のチェックも行い、夜の7時くらいに謝罪のため顧客を訪問しました。
謝罪をして、事情説明をして、終わって出て。そういうときはものすごいストレスを感じて、緊張してるじゃないですか。
その頃はタバコを吸っていたんですけれど、すごくタバコが吸いたくなったんですよ。まずタバコを吸いたい。それに喉もカラカラで何か飲みたい。
それで、会議室を取った所がホテルだったので、おそらく上にラウンジあるだろうと考えて、ひとりでホテルのラウンジに行ったんです。今考えたら、そこはコンラッドでしたね(笑)。
コンラッドのラウンジに入って、倒れ込むようにタバコに火を付けてジントニックか何かを頼んで、ネクタイを緩めて。疲れたなー、って。
……ふっと見ると、ガラス張りで外は東京の夜景が一面に広がる。そこにボックス席があって、その席でビジネスマン風のふたりがシガーをやっていたんですよ。とても優雅に。
それまでシガーなんて、映画でしか見た事なかったんで、「おお、かっこいいな!」って。
そのときぱっとそう思ったんですね。
彼らがすごく優雅に見えて、でもこっちはもうボロボロの状態で。その対比が(笑)。
なんか、そのとき何とも言えない衝撃を受けたんですよ。
なんと言うか、ゆとりを持って寛いでいるビジネスマンと、こっちは何かもうクタクタになってラウンジに駆け込んだ会社人間と。そのギャップに結構ショックを受けて、「ああなりたいな」とまじまじと思ったんですよね。
お手洗いに立って、彼らの席の近くをたまたま通ったときの、あのシガーの香り……とても癒される香りでした。それが、シガーとのファーストコンタクト。初めてシガーをリアルに知った場面でしたね。
初めてシガーを感じたコンラッドのラウンジ。ここからシガーを巡る話が始まった。
だからもう絶対にこのプロジェクト、いまトラブルで大変な状態になっているけれど、何とか納めたら、まずシガーをやってやろうと思って(笑)。それをモチベーションに、日々の仕事をこなしてました(笑)。
なんとかそのプロジェクトが落ち着いた後に、さっきお話しした新宿の行きつけのバーで、吸おうと思いシガーを買って持って行きました。
シガーは新宿のkagayaで買いました。そこで、初心者なんですけれど、おすすめの葉巻ありますかってお店の人に聞いて。
そのときにモンテクリストNo.4をすすめてもらって、それを持ってお店に行って、見よう見まねでやってみたんです。
だけど、うまく吸えないんですよね(笑)。
どうしても肺に入ってしまうんでよね。うまく吸えなくて悪戦苦闘していると、たまたまそこに前からシガーをやってらっしゃってる常連の方が来て、いろいろ教えてもらいました。「ふだんタバコ吸ってるとね、なかなかうまく吸えないんだよ」という話も聞いたので、「それならタバコやめよう」と思いました(笑)。
シガーをきちんと嗜めるようになるために、タバコをやめようと思ったんです。
もともと、タバコはちょっと気に入らない所があったんですよね。
なんていうんですかね、「タバコに支配されている」という感じで。
嗜好品なのに、引きずり回されているみたいな。まず外であくせく喫煙所を探すっていうあれも、どうも気に入らない。そんなのもあって、シガーに出会ったこともきっかけに、もうタバコをやめようと。そこからすっぱりタバコは吸わなくなりました。
それがシガーとの付き合いの始まりでした。
刻み込まれたモンテクリストの香り。
シガーバーに行くと、マスターに色んなシガーを勧めてもらうんですけれど、やっぱり初めて吸った、というのもあるのかもしれませんがモンテクリストのあの香り、それが好きなんですよね。
自宅でシガーの熟成とかはしていなくて、行ったお店のヒュミドールからシガーを選んでその場でいただきます。クラブサイズのシガリロはいつも手元に置いてあるので、ふっと家でやりたいときなんかはそれを吸いますね。
シガリロ何本かはいつも鞄に入れていて、ヒュミドールのないバーなんかに行ったときに、やってもいいか聞いて吸いますね。
シガリロは今はモンテクリストのクラブか、パルタガスのセリー。旅行に行く時なんかにも、重宝しますね。
今回吸っていただいたのはMontecristo Anejados。キューバンシガーでも入手可能。
火をつけた瞬間、時間の流れが変わる。
普段仕事や生活をしているぶんには、シガーに支配されて時間を取られる事はないじゃないですか。完全に主体的なもので、よし終わったから飲みながらちょっとやろうかな、そういう感覚になったので、なんていうんですかね……「邪魔をしなくなった」っていうんですかね。これがタバコだと、どうしても自分の時間を取られちゃうじゃないですか。
うまく言えないんですけれど、例えば会社で仕事している時間は仕事に集中できる。で仕事が終わった後は、自分の好きなお店行って、シガーでリラックスできる。メリハリができるようになったんでしょうかね。仕事とプライベートの区切りが、うまくつけられるようになったと思います。
明らかにタバコと決定的に違うなと思ったのは「時間の流れ」です。
普段仕事していると、ものすごいスピードで時間が流れていくじゃないですか。いつのまにか生活全体もその時間で流れていく。
でも、シガーに火をつけた瞬間に、何かそのスピードが緩くなる。ゆっくりした時間の流れに変わる。
そういう感覚があるんですよね。それはタバコにはない、シガーだけのものだと思うんです。
シガーをはじめるまでは、仕事が終わっても時間の流れる早さは変わらずに過ごしていたと思います。タバコではその時間の流れる早さの変化は感じられない。シガーは時間の流れを変えてくれるんです。
みんながみんな、普段仕事を頑張っているのは何かしらの目的があるからだと思うんです。
最近になって僕が最終的に欲しいものは「ゆとり」なんじゃないかと思うようになったんですよね。「ゆとり」を持ちたいがために日々頑張っているというか。
例えばそれは経済的なゆとりだったり、人間関係のゆとりであったり、時間的なゆとりであったり。
出世したいとか、お金を儲けたいとか、結局それは手段でしかなくて最終的な目的は「ゆとり」を得るためだと思うんですよね。ゆとりを持って生きている人ってなんとなく魅力的じゃないですか。
シガーは、火をつけると日々の生活の中でその「ゆとり」を感じる事が出来る。
頭のどこかに、あの日コンラッドのラウンジにいたふたりのビジネスマンの姿がいつもあって。ああいうふうに「ゆとり」を持てるようになりたい、とずっと思ってきたんですよね。そのために日々勉強して、仕事でもスキルアップして。
今では、あの頃と比べて何倍も効率よく仕事ができるようになったし、シガーもゆとりを持って楽しめるようになり、少しはあの時の彼らに近づけたんじゃないかと思っています。
シガーとは、魔法のようなもの。
やはり、「ゆとり」だと思います。
シガー自体がゆとりをもたらしてくれるものであり、そのシガーを楽しむためのゆとりを得ようと日々を頑張らせてくれるもの。
それは時間の流れも変えてくれる、魔法のようなものだと思っています。
山田 俊夫(やまだ としお)
1970年、北海道野付郡生まれ。英国国立ウェールズ大学経営大学院卒。
日本ヒューレット・パッカード株式会社勤務。
IT・コンピュータ業界に約25年間在籍。
顧客の経営課題をITで解決するプロジェクトの計画立案と目的達成までをマネージメントする。現在は常に2〜3つのプロジェクトチームを同時進行で率いながら、多くのプロジェクトを成功に導いている。