葉巻人|岸野一雄

2016-08-31

不思議と、シガーがぴったりとはまっている人が存在する。まるでジグソーパズルのピースのように、本来あるべき場所に収まっているかのように、ごく自然とシガーを己の一部とするような人だ。

株式会社グアダループの代表、岸野一雄さんもそんなひとりだ。

 

 

子供の頃から「他人と違う自分でありたい」ってね。

「僕は中高と大阪の男子校。みんな不良ぶってタバコを吸い始めるじゃないですか。そんな中で、へそ曲がりというか、僕はみんなと一緒というのが絶対いやで。それは今でもそうなんですけど(笑)『オトナのマネするのなんてカッコわる〜』って吸わないけど仲間と一緒にいて不良ぶるみたいな、ちょっとめんどくさいヤツでした(笑)。大学生になって東京に。ゴダールにあこがれてジタンとゴロワーズ、社会人となってCM制作会社の師匠に影響受けて両切りのキャメルを吸ってました。ぼくは京都生まれの双子座のAB型の左利きという変わり者な青春時代。いつもみじかにタバコがあったけど、今思えば、ふかしタバコしてただけ(笑)なぜかって、のちにタバコがすぐやめられたからね。」


カッコつけなんですよ。でもスタイルって大切でしょ?

「タバコ自体をやめたのは、この40代になってから。

僕はクリエイティブを商売にしてますが、この業界、昔はカッコいい人はみんなタバコを吸ってた。コピーライター、カメラマン、ファッションデザイナー、……

それこそココ・シャネルがタバコをアイコンにしていたように。香水を纏うようにタバコの煙も燻らすみたいなね。」



こんな今だからこそ、葉巻がカッコいいと思うんですよ。

「いま時代は健康ブーム。自分がカッコいいなと思う人がタバコをやめだしました。そしたらね、タバコがだんだんオシャレに見えなくなってきたの。ちょうど自分の広告会社を立ち上げて間もない30代のとき。SONYの広告キャンペーンやミュージックビデオなんかをたくさん作ったりしていて。イタリアンスーツを着て葉巻を吸うのが業界でもちょっと流行っていた頃。懐かしいね(笑)。みんな猛烈に仕事して、夜食事してお酒飲んで……ひと仕事終えてどっかりと『休む』というときにシガーがピッタリだったんですよね。タバコみたいにちょこちょこ吸うんじゃなくてね。スタイルに合ったんですね。」



今回吸っていただいたコイーバ ベイーケ54。ふくよかな芳香はコイーバのトップに君臨する。

 

シガーの道具はとてもセクシー。

「シガーをはじめたころは、ちょうどファッションもライフスタイル提案する時代。GUCCI、VUITTONから、服だけじゃなくラケットケース、縄跳び、ムチとかね(笑)そしてヒュミドールなんかも出ていました。カッコ良くって、いまもオフィスに置いて使っていますけれど、そんなふうにファッションにシガーライフスタイルがはまっていくような動きが面白かった。そういった小物もいろんな種類が出てきて、シガーから始まる色々なライフスタイルがすごく楽しい時代で夢中になりました。

この愛用しているダンヒルのユニークポケットという名のライターは5、6回修理に出してもう20年は使っています。なぜか無くさないで手元にあるんですよね。縁があるんでしょうね。僕はこういう喫煙具、『相棒的道具』が大好きなんです。」

 

DUNHILL(ダンヒル)|ユニークポケット(UNIQUE POCKET)|UL1302

1924年、世界で初めて片手で簡単に操作できる高級ライターとして登場した「ユニーク」。発売以来変わらないダンヒルの代表的なデザインです。


オフィスにある、ルイヴィトンの大型ヒュミドール。

 

旅先で出会うシガーが好き。

「シガーっていうのは、重い物で長いやつなんかは本当に薬物的な効果を秘めていますよね。うっとりと蕩けてぼうっとしてしまう。『究極だな、葉巻は。』って思いますね。リラックスのその先まで行くというか。でもそれでいて溌剌とした力も与えてくれる。

『1日お疲れさま』というリラックスの一服もあると思いますが、『もっと先行くぞ!』というテンションを上げていく一服もあると思うんですよね。

そんな中でコイーバのシグロⅠ、Ⅱはいまのライフスタイルを考えるとベストチョイスなんです。どんと大きなシガーも好きですが、いつでも時間が取れるわけではないっていう現実もありまして。昔は太くて長いのを好んでやっていましたけれど、今はあの程よいサイズ感できゅっと濃縮して楽しむということが多いです。コイーバ以外だとモンテクリストや、本当に時間が無いときにはシガリロを手にとることも増えてきました。吸うのはハバノスです。ノンキューバンシガーも吸ってみるんですが、なんかこう……乗り換えるほどではないんですよね。

僕の煙遍歴は、いい意味で分かりやすいブランド系。でも海外ロケでニューヨーク/ロサンゼルス/パリ/ロンドンなど、旅先で気になったのを吸ったりはしますよ。昔、ニューヨークのダンヒルのショップに行ったとき。店頭でシガーを巻いている人がいるんですよ。デモンストレーションだったのかな。アメリカだからキューバンシガーは手に入らないけれど、お店の方が『こういう美味いやつもあるから、これを買って吸ってみるといいよ』って。それがこれでした(古いCAOの写真)。これをそのときすすめてくれて、箱で購入したんですけれど、濃くていい味でね。もう10年以上前の事ですが。

ワインでもそうなんですけれど、僕は最後の一本は記念に残しちゃう癖があって、これも手をつけられないんですよね……これもその思い出の一本なんです(笑)。」


古いリングのCAO。現在ではもう見ない。


 

南青山葉巻スタイルがお好き。

「じつは昔は『行きつけの店』っていうのがいやだったんです。さっきのへそ曲がりの話じゃないですが(笑)なにか逃げ込む感じっていうか『甘え』っていうのが自分の中にあって。要するに『固定する』のを避けていたんですよね。街にはいい店がいっぱいあるのに、なんでいつも同じ店に行くんだ、と。

でも最近は行動が変化してきて…気がついたらいろんな行きつけがあるんですよね(笑)

バーでは、『BAR JADA』っていうお店が好き。僕と同世代のマスターがやっているんです。20代から何かあるとちょこちょこ行っている、青山骨董通りにあるお店です。地元密着型って言いながらも、場所柄か『あれ、このヒト』って素敵な人ががひょっこりいたりとか面白いんですよ。普通にちゃんとしたお酒を出してくれる。もちろんシガーもオーケー。もう25年くらいの自分の色んな人生の局面のなかでこのお店に足を運び、今では自宅も近いから、ここ2年は寝る前に寄るっていう...あ、これは行きつけですね(笑)」

 

cohiba_behike_bhk_54.jpg

ベイーケ54はRG54×144mmの長大なビトラだが、マイルドな喫味でシルキーな煙が楽しめる。

 

クルマと葉巻。

「30代は、白いアルファロメオスパイダーのオープン。選んだ理由はシガーを吸いながら走りたかったから(笑)40代は、デカダン気分にクラシックベントレーのコンチネンタルRを選びました。それも同じ理由。僕にとって葉巻とドライブの快楽は共通するんです。」

 

葉巻の煙をまとう。

「シガーにとって大事なもの。それは『煙』なのかも。

『くゆらす』『まとう』という煙のなかにある自分。

女性でいうとメイクアップしたりとか、香水をふりまくとか。

僕は香水も大好きで、会社のデスクにも気に入った物をいくつも置いたりしてるんですが、気分やシチュエーションに合わせて自分で複数ブレンドして使い分けます。

僕にとって香水とシガーは自分を表すことのできる大切なもの。シガーは味も大事だと思いますが、僕は『香り』が大きな要素だと考えてます。

香りっていうのはすごく重要なもので、ひとの心に作用します。人との関係の中でとても大事ですよ。シガーの作り手の香りに対する考え方に興味がありますね。香りを視覚化した物が煙ですから。」

岸野氏のデスクの上には、KENZO,TOMFORD,S.MARIA NOVELLAなど様々の香水が無造作に置かれている。

 

シガーは男の香水だ。

「シガーは、僕にとって自分を表現するためのツール。香水のように身に纏うものだと捉えています。気持ちが人の心に入っていくように。服や時計や靴は入っていかないけれど、シガーの煙にのって香りはすーっと心に入っていく。

女性で『タバコの匂いは嫌いだけれどシガーの香りは好きです』っていうのはよく耳にしますよね。それはシガーの香りにのって相手にも何か伝わってるんじゃないかな、と。女性はそういうことに敏感だと思うんですよね。

数少ない無形の自己表現のひとつ。そうやって考えてみると、シガーを乱暴に吸う人はいないじゃないですか。『ちょっとシガーを吸っていいですか?』って周りに聞いて配慮するマナーがある。シガーって、他人に対する影響力が強いぶん、解かってる人がたしなむもの。それゆえひとをジェントルにしてくれるものですよね、香水もシガーも強すぎず、さりげなくがポイントですね(笑)」


グアダループのプロフィール写真。煙をまとう岸野氏。


 

岸野 一雄(きしの かずお)

 

1964年生まれ。株式会社グアダループ代表取締役。プロデューサー/クリエイティブ・ディレクター。

CM制作会社ピラミッドフィルムにて、コマーシャル制作に携わった後、独立。

1996年(株)グアダループ、1998年(株)マルチニークを設立。

 

ビューティを軸にしながらも、その枠にとらわれないクロスメディアに関するプランニング・プロデュースを手がけている。

全日本コマーシャルフェスティバル(ACC賞)テレビスポットCM部門金賞やスイス・ロカルノ映画祭Filmmakers of Present賞など、受賞多数。



 

ハバナベガス

西麻布の一角にひっそりと建つシガーバー。

建物全てがバーであり、一階はキューバのモヒートの名店「ボデギータ・デル・メディオ」をイメージしたカジュアルなスタンディングバー。二階は会員専用のシガーバーで、ハバナのホテルバーをイメージして作られている。

葉巻のソムリエ「シガーコンセイユ」日本一となったオーナーバーテンダーがキューバから買い付けた葉巻が提供される。事前に御予約されることをお薦めいたします。

 


Text by Tatsuya Igarashi:Twitter FaceBook