葉巻人|高橋啓造

2016-10-31

シガーはガチガチにしゃちほこばって吸うものではない。気さくに、自然体で、楽しく——シガーがひとつの文化として受け入れられている海外のように、そんなマインドが日本でも広がりつつある。青山でオーダーメイドのシャツ店を営む高橋さんも、そんなスモーカーのひとりだ。
スノッブを排した、リアルなスモーカーと煙を交わしながらシガーについてのお話を伺った。

 

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シガーというのは自然体。

僕は今67歳なんです。32歳までタバコを吸っていたんですが、体調を崩してからやめていました。
それからしばらく煙からは身を引いていたんですが、8年前かな。キャットストリートにあるビーっていうソウルバーのマスターがゴルフ仲間で友達なんですけれど、彼にシガーを教えてもらったんです。で、そこからやりはじめました。だから、僕のベースのバーっていうのは、そのビーなんです。
最初のきっかけはカウンターでシガーを見て、格好いいな、よし吸ってやろう、と軽い気持ちで(笑)。

あと帝国ホテルの二階のバー、インペリアル。そこにはボトルを置いてもらっています。どちらもシガーをゆっくり楽しめる、いい所ですよ。
うちはシャツ専門店で、僕の店は骨董通りで15年になるんですけどね、いつも食事を終えてから、シガーを吸いに行きます。なんで、シガーを吸うのは必ず夜、お酒を飲むときなんですよ。

 

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知識に淫しているというか、スノッブというか、あんまり講釈があるような、シガーシガーしたようなのは好きじゃないんで、ぱーっと楽しく吸えるような場所が好きなんですよね。
やっぱりシガーの原点って言ったら、現地のインディアンが車座で吸っていた、そこからきたものですから。好きなように、食事のあとお酒と一緒に楽しく美味しく。そういうのがいいんです。
火の付け方だとか吸い方だとか、儀式みたいな細かいことを言ってきたから、シガーはハードルが高いと思われてしまうんですよ。

ヨーロッパとかに良く行くんですけれど、あちらではそんなものは全然関係ないんだ。ホームレスのおじさんが落ちているシガーの吸い殻を拾って火をつけて吸ってる、普通の光景。それを見たとき、何というか究極だな、シガーというのは自然体なんだな、と深く納得しました。それが普通で、本当なんですよね。

 

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K’s PAPAではシガーの箱が効果的なディスプレイに利用されている。


感性で、気分で楽しむ。

最初のシガーはたぶんPunchだったと思います。ビーのマスターがPunchが好きで、それを吸わせてもらったんですよ。僕は他に好きなのはPartagas。よく吸うのはPartagasかPunchです。
あんまり何のブランド、というのは興味がなく、美味しくて自分の感性にマッチしたものを吸い続けていますね。
シガーに合わせるなら、僕は甘めのシェリーです。日によって違いますけれど、帝国ホテルにはスコッチを置いているので、気分で変えて楽しみます。


シガーをはじめる前と後での変化。

やっぱりなんというか、ゆとり感というか。何かが、ちょっと違うと思う。
お酒を飲むにもゆったりとした時間の流れを感じるというか。『場面』を感じるようになりましたよね。
僕はあんまり群がるというのが好きじゃないタイプなので、ひとりでも飲みに行くんですが、そういうときのすごし方がね、もっと楽しく変わるんですよ。
今までずいぶん煙から遠ざかっていましたが、シガーを始めて、お酒プラスシガーがある事で何か暖かいものがひとつそばに増えた、という実感があります。

 

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「男の書斎」のようなK’s PAPAの店内。


今までシガーを吸ってきた中での思い出。

それがないんですよ(笑)シガーっていうもの自体が、そんな大層なものじゃないと思っていますから、シガーがあるから特別!という捉え方をしないんです(笑)。お酒を飲んだりタバコを吸うみたいな行為の延長ですからね。
何か特別なものを押し戴く、というものじゃなく、単にシガーと出会って生活の中のひとつの習慣が増えた、それだけですから。
吸ってる様子を見てる人は、なんか、葉巻……お吸いになるんですね、ってちょっと『違う』ものを見ている様子というのはよくありますよ。でも、僕は全く特別なものとは感じないから、もう生活になじんでるんですよね。

先ほどもお話ししましたけれど、パリに行ったときに、ホームレスのおじいちゃんが落ちてたシガーの吸い殻を拾って、ちぎって吸うのを見た事あるんですよ。
それは……かっこいいというかなんというか、『ああ、これもシガーだな』というのを感じた。
そういうものをね、格好つけてやるのは僕はあんまりどうかと思うんですよね。まあ、意識するというのはいい事だと思いますけれど。

日本の場合、なにか『特別なもの』だと身構えちゃう人が多いですよね。全く違うと思うんです。逆に特別なものにするから敷居が高くなって、間口が狭くなっちゃう。もっとフランクにみんなが楽しめば、もっと良くなると思うですけどねえ。

 

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今回吸っていただいたのはPunch Black Prince ‘98。


確かにシガーは安いものじゃないですが、それで得られる時間はお金のたかじゃ計れないものです。でも、その場をさらに濃厚に楽しめる。手頃なお酒一杯分の値段で手に入るものもありますし、お酒一杯より長く楽しめる。
お堅いのはお堅いのでも別にいいんですが、もっとこう幅を広げてもらって、カチコチに堅くなってシガーを扱うというより、和気あいあいと吸うと、もっといいと僕は思います。

文化的、って言ったらちょっと妙かもしれないけれど、やっぱり広がらないと。でないとシガーっていうものが変な形になっていってしまうと思う。
僕は8年前の入り口でそういう風に教えてもらえたから、そういうふうに考えるのかもしれませんが。でも、振り返ってみるとやっぱり日本だけなんですよ。
シガーを手に取る前、何も知らなかった時はシガー……何か遠い世界なんじゃない、って感じでしたけれど、うまい出会いを得られて、そこを超えて何かひとつプラス豊かになった気はします。やっぱり、入り口が良かったと思いますね。

 

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「これは8年前に買ってずっと使ってるカッターですね。ケースはうちの奥さんの手作りです(笑)。


カッターひとつとっても色々あるけれど、僕はブランドとかじゃなく自分が気に入って使いやすいものを使えばいいと思うんです。切れればいいんですよ」


そして、シガーとは。

豊かになりますよね。心とか、時間が。
お酒を飲みながら過ごす場所……バーなり何なりあるじゃないですか。そこでシガーを吸いながら、反省もあるし目標もあるし、色んなことを燻らせながら、考えられるというかね。
ある『場面』を、みんな自分の『場面』を持てる。それはとてもいいことだな、と思うんです。
ちょっと大雑把ですが、シガーを吸うのは良い時間を過ごすため、です。シガーによってより、良い時間が膨らむというかね。
シガーはもっと、自然にね。




高橋 啓造(たかはし けいぞう)

1949年、大阪府大阪市生まれ。追手門学院大学卒業後、カネタシャツ株式会社入社後シャツ一筋。

1975年に上京後もシャツ業界に従事し、2002年に青山でオーダーシャツショップ「K's PAPA」を立ち上げる。1500種類以上の生地作り上げられるオーダーシャツは各界からの評価が高い。

 

ハバナベガス

西麻布の一角にひっそりと建つシガーバー。
建物全てがバーであり、一階はキューバのモヒートの名店「ボデギータ・デル・メディオ」をイメージしたカジュアルなスタンディングバー。二階は会員専用のシガーバーで、ハバナのホテルバーをイメージして作られている。
葉巻のソムリエ「シガーコンセイユ」日本一となったオーナーバーテンダーがキューバから買い付けた葉巻が提供される。事前に御予約されることをお薦めいたします。

 

 


Text by Tatsuya Igarashi:Twitter FaceBook