葉巻人|宮里優作

2016-01-05

 

真冬の別府。広々としたガラス張りの部屋には、暖炉を囲むようにソファが配置されている。端に腰掛けた今回のゲストであるプロゴルファーの宮里優作さんは、シガーのフットをライターで炙りながら口を開いた。

 

「葉巻は楽しいなあ」

 

手にはディプロマティコス No.7。1970年代のものだ。堂に入った姿勢で、初めてのビトラを注意深く喫煙する。ディプロマティコスはNo.1からNo.7まである。ピッグテールを備えたNo.7は十数年しか生産されていない。

 

「これ、面白い……めっちゃ元気やね。凄く古い葉巻だけど意外としっかりしてる。吸った感じはバーンとくるんだけど、後味はさらりと抜ける。でもちゃんと舌に残る風味。これは面白い、初めての感覚だよ。なんかいいね」

 

2015年、プロ3勝目をあげ賞金ランキング2位。乗りに乗っている彼はゴルフ界の中でも有名なシガースモーカーだ。

 

「葉巻についての取材は何度か受けましたよ、簡単なものを。ゴルフの取材は巻きで進めるんですけど、葉巻となった瞬間はやっぱり『ちょっと場所変えようか?』ってなりますね(笑)」

 

屈託なく笑う彼の表情に、試合中の緊張した色はない。煙の向こうには、シガーを愛するリラックスした宮里さんの顔があった。

 

「葉巻を始めるきっかけは、プロゴルファーの野上貴夫さんでした。そのころ僕は、開幕から夏場まで7戦連続予選落ちしていて、賞金ゼロ。ローになっていたら、『お前ちょっと葉巻くらいやってみろよ』みたいな感じですすめられて。えっ葉巻?いやちょっと分かんないですよ、難しくないですか?って感じだったんですが、福岡のワインバーに連れられてが初めてでしたね」

 

初めて吸ったのはハバノスのオヨ・デ・モントレイだったという。元々タバコを吸う習慣はなかったので、肺に入れず簡単にふかせて、むせることもなくしっかり味わえた。

 

「あれ!?って感じ。いきなり美味しかったのを憶えています。コーヒーに合うな、これは新しいな、って。で、それからちょっとずつ自分でやるようになった。でも最初は、何も分からないから。管理のしかたも分からなくて、3本くらいバリバリにしちゃったんですよ。え?あのとき吸ったあれじゃない!って。ショックだったな。その後、葉巻を置いてるバーで管理の方法を教えてもらって、自分なりに調べて。そのころ薬さん(薬師寺 紹邦 、ツアーパタードットコム代表)に会って、じゃあ一緒に葉巻やろうかってなって、その中で色々教えてもらって。なるほどな!ってなりましたね」

 

最初のころは、シガーは行く先々のバーで購入していたが、今ではまとめて購入して自宅で管理・熟成させているという。

シガーに慣れて日常的に吸うようになってからの精神的な変化について教えてください、と質問すると宮里さんは「全く違うよ。全く、全く違う。想像力が全く違う」と強い口調になった。

 

「2013年の九州オープンのころには、ひとりでも葉巻をやるようになっていて。クラブハウスのベランダでシガーをやってるとき……良いイメージとアイデアが凄く浮かぶ。試合に対するひらめき、その振り返り。今日どうだったか、というのを振り返るときに、凄く落ちついて、冷静に、いいところをピックできるんですよ。そして自分の中でなるほどね、と俯瞰できて、それじゃあ明日こうやっていこう、と組み立てられる」

 

持ち歩いているシガーキャディ(通称「弁当箱」)の中身。奥からディプロマティコス ブシドー、パルタガス ルシタニアス、コイーバ ピラミデス・エクストラ、オヨ・デ・モントレイ ピラミデス、ラモン・アロネス スペシャリー・セレクテッド ロブスト・コルト、グロリア・クバーナ メダーユ・ドールNo.2、ロメオ・イ・フリエタ ピラミデス。左側縦2本はデイリーシガーのボリバー ロイヤルコロナス。パンチカッターと保湿にボヴェダを入れている。

 

プロとして初めて勝利をおさめた九州オープン。この勝ちがその年のゴルフ日本シリーズJTカップ優勝につながる。

では、シガーを始める前まではどうだったのか。

 

「それまでは、悪いイメージしかできなかった。良いイメージを拾おうとするんだけど、後悔ばっかりで全然拾えない。それが葉巻を吸いながらだと、自分の良かったところをポンと探し出せる。次の新しいところへ、考えなくてもすっと進める。想像力が広がるんですよ。葉巻を吸うと想像力が広がる。そして気がついたら1、2時間も経ってて、あれっ!?みたいな。それで、その感覚をラウンド中でも維持しようと、自分がリラックスしてるときの味を感じさせて脳を錯覚させるために、混んでいるとき以外は葉巻を手元に置いてますね」

 

スポーツ心理学でいう「フロー」だろうか。シガーはプレイになくてはならないものとなった。それは試合前のルーチンにも変化を与えたという。

 

「葉巻を始めてから、時間の配分が変わりましたね。昔は、2時間半前に入ってたんですよ。まずは3、40分身体を動かして、食事して準備して、1時間前に練習場に来る。最近は部屋でストレッチして身体動かして、食事して1時間半前。時間を作って葉巻を吸う。だから来る選手のみんながみんな、香りと煙を目印にして『あ、いるな?』『いたいた』って集って話を始める、みたいな。話はいいからそんなことよりまず葉巻を吸え!と(笑)

最近、ラウンド中の手の形がおかしいですもん。普通はグリップの形してるじゃないですか。こう。(グリップを握る)なんか、こうなってるんですよね(指先がシガーを挟む形)」

 

練習、プレイ、宮里さんのゴルフと切っても切れないものとなったシガー。そんな彼がシガーを吸うお気に入りの場所について聞いてみた。

 

「ゴルフ場なら、2階のテラスですね。誰も来ないから。あとお店やバーなら、ネプラスウルトラ。なるべく行きたいから、東京に来たときはなんとか時間を作って。開店の3時、開いた瞬間から行きますよ。行ったら伊藤さん(ネプラスウルトラ六本木 マスターバーテンダー)が仕込みをやってて、『え?来ます?』『ちょっといいすか?』『いいですよー』って。もう開いたというのか開けたというのか」

 

シガーを初めて吸ってから5年。本格的に吸いはじめて3年目。

ゴルフ界でともに戦うパートナーであるシガーに対する思い入れを聞いてみた。

 

「あるある。たくさんありますよ。優勝したら絶対にこの葉巻吸ってやろう、というモチベーション。そのための葉巻は常に持ち歩いてるし、優勝したときに咥えながらトロフィー挙げたいですね。この前の優勝(2015年 ダンロップ・フェニックストーナメント)でやろうとしたら、葉巻を入れていたケースがどこかに行っちゃって、あれ、葉巻は!?ってなって。残念」

 

愛用のシガーグッズを見せてもらった。シガークリップ、シエスタ、ビープのターボライター、ジカーのシガーカッター。:CubanCigar.jp

 

優勝といえば、あの劇的な戦いを抜きにして宮里優作は語れない。

初優勝を遂げた、2013年のゴルフ日本シリーズJTカップだ。

 

「あのときは、プレー前も後も吸っていたんですけれど、一番印象的だったのは、3日目が終わった後。寒かったけれど、誰もいないパッティンググリーンで、ひとりで腰掛けて電光掲示板をずっと見ていたんですよ。葉巻を吸いながら、明日の戦略をずっと練ってた。薄暗くなって、足元も冷えてきたんだけど、考えながら無心だった。葉巻を眺めて『これいいな』って。

 で、明けて最終日、本当に凄く前が詰まってて。肩の力を抜くために、後ろで葉巻吸いたかったですよ。そうしたらどこに行ってもカメラがついてくるから、火がつけられない!って。終わった他の選手たちはパカパカ吸って手を振ってるのに。しょうがないからティー咥えて、とりあえず葉巻咥えてるイメージで素振りしましたね(笑)」

 

「葉巻とゴルフ」は、ヒメネスやダレン・クラークなど、ヨーロッパの選手を彷彿とさせる。海外のプロゴルファーの多くはシガースモーカーだ。

イギリス発祥の紳士のスポーツであるゴルフは、シガーと不可分である。

 

「欧州では全く普通にされてますからね。どちらかというとセット。お祝いとしてローソク付けるように、シガーに火をつける。そんな感じですよ、あっちでは。去年全英オープンに行ったら、みんな普通にパッティングレーンで咥えタバコでした。それなら、って葉巻を咥えながら練習してたら、ヒメネスが『おおなんだジャパニーズボーイ』って近づいてきて。シガークリップに食いついてきて、『えっこれ何!?』『プレイ中に便利なんだよ、葉巻を挟んでおけるんだよ』『ちょっと借りていいか?』って持っていっちゃって。それでこれ誰のだ?あいつだあいつだ!どこで買えるんだ?そうかそうかって騒いでましたよ」

 

全英オープンにて、ヒメネスと。

 

そんな宮里さんに、お気に入りのシガーを聞いてみた。

 

「ボリバーです。デイリーシガーはだいたいロイヤルコロナス。ボリロイコロ。これが最高です。最初ペティコロを吸っていたけれど、ロイコロを吸ったら美味さに驚いて。もちろんベリコソやショートボリバーも好きかな。

 最近は短い時間でも吸える葉巻が色々あるから、いいですよね。 ラモン・アロネスのオランダ限定、ロブスト・コルトとかもよかった。屋外だと、長い葉巻は最後の方は湿気や乾燥でぼろぼろになっちゃうから。

 優勝したときのために長いものも用意してますよ。パルタガス ルシタニアス、コイーバBHK52、そしてグロリア・クバーナのメダーユ・ドールNo.2。メダツー。これは常に。でも、いつ優勝できるなんて分からないじゃないですか。だから、葉巻を持っていくときいつも凄い迷うんですよ。箱を空けてどれにしようか、でも俺勝てるのか?うーーん、って(笑)

 で、その葉巻を選ぶのに迷っている時間が凄く楽しい。部屋から出てこないから、パパ何やってんの?お掃除?って外から子供の声が。まあ掃除みたいなものだけれど」

 

デイリーシガーのボリバー ロイヤルコロナス。サイズは50×124、ロブストス(ロブスト)。CubanCigar.jpでよく購入するという。

 

趣味や嗜好品を超え、ライフスタイルとなった宮里優作のシガー。

そこで聞いてみた。シガーを吸っていない人に、シガーをおすすめするひと言。

 

「世界が変わりますよ。そして葉巻を通じて、色々な人と会える。面白いですよ。それこそこの間、リシャールさん(リシャール・ミル、リシャール・ミル創業者。リシャール・ミルは宮里優作のスポンサー企業)と会って、彼も葉巻が好きで。いろいろな話ができました。

 変な話、ちょっとエネルギーがなくなってる人にいいかもしれないですね。またエネルギーが湧いてくるっていうか。

 なんていうか、ツールというよりは、こう自分の内のものを引き出してくれるもの、それがすごくある。だからみんな、『早くやればいいのに』って思ってる。とくにプロスポーツの世界の人は。これはひとつの手段だと思いますよ」

 

 

宮里 優作(みやざと ゆうさく)

兄の宮里聖志、妹の宮里藍、プロゴルファー三兄妹の中でも「最も才能がある」と言われる優作は、飛距離と正確なショットを武器にジュニア時代に8勝をあげ、大学は東北福祉大学に進学するとアマチュア時代に日本アマ、日本学生など主要タイトルを総ナメした。
プロ転向前からソニーオープンに出場し、その頃から海外志向が強く2003年にプロデビュー戦を飾ったソニー・オープン予選を通過することが出来きず2004年、2006年とソニーオープンに出場の経験をいかし、同年の8月にはリノ・タホ・オープンで1日に2度のホールインワンを達成、初のUSPGA予選を突破した。また2度にわたり宮里は米国ツアーのQSchoolにも挑戦している。
2002年のプロ転向後も1年目からシード権を確保するなど、着実に実績を積み重ね、2013年日本シリーズJTカップにてプロ転向11年目で悲願の初優勝をとげ、多くのゴルフファンの感動を誘った。

 

潮騒の宿 晴海

別府湾を間近に感じられるCafe&Bar「スウィートバジル」。お昼はカフェ、夜はバー。
どちらの時間でも大きな窓から別府湾を間近に望むロケーションが楽しめます。お日にちによっては、生演湊でジャズやボッサ・ノーヴァのライブがノーチャージでご覧いただけます。

テラス席もあり、夕刻の潮騒を感じながらのカクテルタイムも素敵です。

 

 

Text by Tatsuya Igarashi