葉巻人|石井忍

2016-02-26

受け取った葉巻をしげしげと眺め、口を開く。

 

「8-9-8かな?いやこれは違うな……」

 

編集長五十嵐が渡したシガーはPartagas、サイズは43×170、ダリア(ロンズデール)。普通は誰でも「8-9-8」、いわゆる「Partagas Varnished(パルタガス バーニッシュ)」だと思うはずだ。

その手にあるのは同サイズの「Partagas de Partagas No.1(パルタガス・デ・パルタガス No.1)」、2000年のもの。一瞬でその違いを見抜いた。

 

「でも葉巻は2013年から始めて、まだ2年くらいです。ほとんどない趣味が靴と葉巻なんですよ」

 

前回の対談で、宮里優作さんが次回に指名したのがゴルフのツアープロコーチ、石井忍さんだった。最前線で戦うプロゴルファーをコーチする傍ら、様々なメディアへの出演や執筆活動も行っている。

 

「……これはおいしい。おいしいです。旨い。パルタガスという感じがして、うまくビンテージ感が乗っている。吸っていけばさらに変わるんだろうな」

 

注意深くパンチカットして火をつけたシガーの煙を、満足そうに吐く。

音もしないし簡単なので、カットはパンチが多いという。結婚のお祝いでいただいたという、ダビドフのパンチカッターを見せてくれた。

 

重宝しているダビドフのパンチカッター。

 

「最初のころの葉巻って、成人して試しにタバコを吸ってみてるような感じで。煙が出てなんだかかっこいいな、いいな、みたいな。忘れもしない、初めて吸った葉巻はタイのトーナメント(2013年JGTOタイランドツアー)帰りの鉄也(原口鉄也 プロゴルファー)が『お前はこれでいいよ』ってすすめてきたダビドフのプリメロス。吸った感じは『思ったより軽いな?』って感想でした。でも煙がばーっと出てあっ、いいな、ってなりました。味まではまだはっきり分かりませんでしたね」

 

シガーにはすぐに魅了されたという。

 

「じゃあ自分でもやろう、と思ってどこで売っているのか探しました。近くで調べたら千葉の酒屋にあったので、そこで何本か買って。その中のパンチ・パンチとベガス・ロバイナのファモソスを吸ったら、『あっ、うまいな!』と。

葉巻っていうのは少しの手間をかけるじゃないですか。どこでもポケットから出してそのまま火をつけられるわけじゃない。楽しむためには環境と時間が必要ですけれども、その吸う環境と時間を作る事が結構いいなと思って。

最初は男の子として、おじさんがぷーっと煙を出してるのがカッコいい!っていうのから入って、次にこの環境を用意するというのが気に入って。もしかすると、味よりもそっちの方が先に好きになったのかもしれないですね。

だから葉巻自体安いものではないと思うんですけれども、それに見合うものがあるなと。葉巻の価値というのは、時間を買っているところにもあると思います」

 

 

シガーが生活の一部となって、以前と比べてどのような点が変わったのかについて聞いてみた。

 

「すごくフォーマットされるというか、忘れられるというか。ネガティブなものを頭の中から消し去る事ができる。僕の場合は、一切忘れてフラットになれる。

ゴルフって、いいときの方が少ないんですよ。それがましてやプロゴルファーは、生活がかかっている。それをコーチングしていく中で、飲み込まれず、こちら側は平常心を保たなくちゃいけない。

仕事やそれ以外でも、何かあるたびに我慢したり自分のフィルターを通して……まいっかフィルターみたいなのが自分の中にあって、うん?と思う事もそれを通して『ま、いっか』にする(笑)。でも、葉巻がある事によってそのフィルターを使わなくてすむ。寿命が延びる(笑)」

 

最近は、シガーのもたらす効果にも注目しているという。実際にゴルフのレッスンでも使っているという、「フォーカスバンド」を見せてもらった。

 

「普通人間はいつも左脳を動かしているんですが、リラックスや集中をすると右脳が働き始めるんですね。この『フォーカスバンド』はそれを意識的にできるよう、アスリートがトレーニングするための機械なんです。面白いのは葉巻の香りを嗅ぐとスーっと右脳が動き始める。葉巻はね、アルファ波が出るんです」

 

実際に着用してもらい喫煙すると、すぐに右脳が動き出すのがわかった。意図的にリラックスするには、好きな事をしたり思い出したりすることが有効だという。

愛用しているシガーグッズ。シガーケースはカーボンで底にパンチカッターが仕込まれている。ライターはシグロ。

 

「一番好きな葉巻は、パルタガス セリーDエスペシアル(EL2010)。今まで吸った中で、一番衝撃的だった。でも好きなものは他にもたくさんあるので、一位は付けられないですね。好きなブランドはパルタガスで不動ですけれど、他にはセリーC No.3(EL2012)、小さいのでいえばボリバーのペティベリコソス(EL2009)。最近出たロメオのアネハドスもすごくよかったですね。

デイリーはパルタガスのハバネロスが多いです。ショーツよりちょっとマイルドなんですよね。あとベグエロスのタパドスマニャニタス

ヒュミドールは自宅にひとつと職場には密閉できるガラスのジャーがひとつあって、そこにヒュミディパックと一緒に入れて保管しています。1日1本を目安にしていますが、楽しいともう1本火が付いたりしますね。そうなると嫁さんは帰っちゃいます。『まだいるんでしょ?』って(笑)」

 

シガーキャディの中身。デイリーであるパルタガス ハバネロスにセリーD No.4、ベグエロス タパドス、マニャニタス、ボリバー ロイヤルコロナス。下の段にはパルタガス ルシタニアス、ロメオ・イ・フリエタ チャーチル、グロリア・クバーナ メダーユ・ドール No.2、H.アップマン コネスールA、ダビドフも見える。

 

ルーチンとなったシガーを楽しむための環境には、居心地を求めるという。

 

「神保町だと『さぼうる』っていういいお店があるんですよ。千葉だと星乃珈琲ダンディライオン。東京ならウェスティンホテルのシガークラブです。お気に入りは大阪の北新地のスーペルノーバ。ここでおすすめされた『これは特別ですよ』っていうルシタニアスがすごく旨くて。本当に特別でした」

 

生活を彩るシガーはいつもその場にあり、その香りが記憶を刻んでくれる。思い出深いシガーについてのエピソードを語ってもらった。

 

「色々ありますよ。去年全米オープンに行ったときなんかは、会場でヒメネスに会ったんです。『Mr.ヒメネス』って話しかけたら『どうした』って返してくれたんで『アイライクシガー』『ユーライクシガー?』って(笑)葉巻を交換してくれないかと話して葉巻ケースを出して中を見せたら、『いや、これをあげるよ』って懐から出した皮のシガーケースからタパドスを抜いて渡してくれたんですよ。いただいたものだから、倍おいしかったな。

あと、結婚式のときにパルタガス グラン・レゼルバをいただいて、お祝いものだからありがたく火をつけたんですよ。素晴らしくおいしくて、なん口か吸って置いておいたら、しばらくしていつの間にか高崎(高崎博之 SNS株式会社代表)に全部吸われてて。これは絶対に忘れないだろうな(笑)」

 

ヒメネスと。彼は片時もシガーを離さない。

 

シガーについて話すとき、人は誰でも笑顔になる。石井さんにとって、シガーとは何かを聞いてみた。

 

「さっきの話の続きになっちゃいますけど、リセットボタン的なものですね。良い事も悪い事も、フラットにしてくれる。なんかこう、デコボコするじゃないですか、生きてると。けど、吸ってるときはシュッと均してくれる。で、そこから何かを積み上げていこう、という感じになるんです」

 

 

「次回のインタビューですが、元イーグルポイントゴルフクラブ代表の飯島敏郎さんを指名したいと思います。日本で唯一ヒュミドールを置いているゴルフ場なんです。ぜひお話が聞きたいですね」

 

石井 忍(いしい しのぶ)

1974年8月27日、千葉県生まれ。13歳からゴルフを始め、日本大学ゴルフ部を経て、1998年にツアープロ転向。近年はツアープロコーチとして活躍し、現在はプロやジュニア、そしてアマチュアと、広くレッスン活動をしている。

ACE GOLF CLUB主宰 ACE GOLFCLUB千葉神保町 ゴルフインストラクター。近著「自分のゴルフの見直し方」「考えないアプローチ」。

 

ネ・プラス・ウルトラ 六本木

六本木交差点ならび、俳優座劇場の場裏。ラテン語で「これより先はない」という意。

古城を彷彿させる空間に カウンター6席、ソファー9席。調度品は全てアンティークで統一。厳選された希少な洋酒を数多く揃える。オペラ、バロック音楽に包まれた空間で思慮の酒、読み解く酒、旋律と交響の酒を……。六本木界隈でもひときわ目立つ、石造りで出来たドアを目印にしてください。

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