葉巻人|飯島 敏郎
2016-03-31
葉巻との出会いについて教えてくださいという質問に、飯島さんは立ち昇るシガーの煙を見上げながら答えてくれた。
「僕はそもそもヘビースモーカーだったんですよ。ショートホープというきつい煙草を吸っていました。そんな僕の中にはシガーというのは偏見と誤解があって、カッコ付けるためにやってるんじゃないの?みたいなものがあったんです。
よくワインでもいるじゃないですか、わかりもしないのに蘊蓄を語るような。そういうふうにはなりたくなかったんですね。
でも、何か憧れというものはずっとありました。
昔の映画なんかを観ると、みんなかっこよくシガーを吸っているんですよね。そういうのを見てああ、かっこいいな、という憧れはありました。
けれども、嗜みを知らないで知ったかぶりで……っていうのは僕の中では嫌だったんです。
だから何かきっかけが欲しかったのかもしれない。そしてはじめるきっかけは、あの有名なトーナメント ″マスターズ” でした」
海外のゴルフ場で受けた衝撃が今の活動の原点になる。写真はKING SBARNS GOLF LINKS
「毎年4月にオーガスタ・ナショナル・ゴルフクラブで開催されるマスターズは世界のレジェンドと呼ばれるマスター(名手)だけが招待される4大メジャーの中で唯一会場の変わらないトーナメントです。企業広告もなく全て濃いグリーン色とホワイト色で統一され、地上に電線コード一本も出さず全て埋設している程、拘った最高の舞台なんです。その素晴らしさはTVで観ても分かりますが、ひとつだけTVでは伝わらないものがあるんです。……それがシガーの香りなんです。
マスターズの舞台となるコースに入った瞬間から感じるシガーの香り。多くのパトロン(ギャラリー)達が気軽にシガーを楽しみながら観戦している。たえず馨しい香りが漂っている。
1週間ずっとそこにいれば、鼻から入ったシガーの香りが脳に染み付きますよ。寝ても覚めてもシガーの香りなわけですから。
2013年4月、マスターズで薬師寺さん(薬師寺 紹邦 、ツアーパタードットコム代表)と偶然にもバッタリお会いました。その夜一緒に食事をした後に、勧められてスタバで吸ったのが初めてのシガーだったんです。
薬師寺さんが持っていたTrinidad Reyesが最初のシガーでした。そこで嗜みを教えてもらって 、そこからいろんなブランドを吸っていった、という感じですね。
マスターズで薬師寺さんにシガーへの道に背中を押してもらえたのはとてもよかったと思っています。シガーを吸うまでは、葉巻ってふかして香りだけ楽しむものだろうって、固定概念があったんですけれどね。ところが吸っていくうちに何ともいえない旨みがわかって。これは本格的にやることになるだろうなぁ~ということが自分で分かりました(笑)……薬師寺さんとの偶然の出逢いは必然だったんですね。
海外のゴルフ場ではシガーを吸いながらゴルフをするというスタイルが定着していて、むしろ常識であるという洗礼をマスターズで受けました。
そんなわけで、葉巻を吸う一番好きな場所はゴルフ場です。職業病なのか、やっぱり芝生の上で吸うのが一番旨いですよね」
スコットランドのゴルフ場クラブハウスの様子。当たり前の様にシガーが用意されている。
飯島さんといえば、イーグルポイントゴルフクラブでの活躍が有名だ。スモーカー層はゴルフ層にかぶる事が多いが、その層ではスモーカーに優しいゴルフ場として知られている。
ここでは大胆な革新を行い、代表取締役社長就任後、初年度よりキャッシュフローを黒字へ転換させ、以降、3.11の大震災に見舞われながらも黒字をキープし僅か5年目で償却後の営業利益を黒字化へ。経営の安定化とメンバー満足度の両輪の輪を同時に達成するというミッションを果たしたことを機に2014年3月末の決算を見届け、翌日4月1日付けで勇退した。
「僕はゴルフ業界今年で34年目、ずっとゴルフ業界一筋です。芝草刈りから入って経営まで、ゴルフに関わるあらゆる実務経験を積んできました。なのでどうやったらゴルフ場の収益を確保できるかという事に関しては、お蔭さまで引き出しが沢山増えてきました。
イーグルポイントの社長に就任した時「このゴルフ場は別格だ!」と言わせる仕掛けが必要だと直感したんです。
スコッティキャメロンのツアーパターを置いたりするのは、イーグルポイントをどういう方向へ持っていこうかという意志の表れでした。
イーグルポイントは超エクスクルーシブなゴルフ場です。メンバー数は100名、年会費は100万円、そうかと言ってメンバーフィーは0ではなく1万円程度かかります。バブル時代とは違うこの時代でも会員権は3000万。言わば日本では異質なゴルフ場なわけです。
しかしながら、排他的に運営し続けるには年会費収入だけでは経営は成り立たない。
高額の年会費を負担するメンバーの皆様に非日常的な空間を提供し、メンバーの紹介でいらした方へ「お・も・て・な・し」を徹底的におこない、その中でリピート率をあげていく。それには特別なベネフィットをもたらす事が経営改善の鍵でした。
イーグルポイントはそうそうたるオーナーの方々(理事)とその親しいメンバーの方々で構成されているクラブですので、海外でのゴルフ経験者も多数いらっしゃいました。
だからこそ、積極的に世界の超一流のテイストを取り入れるために自費で海外に足を運び、オーガスタやスコットランドのセント・アンドリュース(オールドコース)も視察しました。
徹底的に管理されたオーガスタと対照的な、ナチュラルなあるがままのセント・アンドリュース。
どちらもゴルフの頂点で、貪欲にすべてを吸収してやろうと行って来た訳なんです。
マスターズでは撮影可能日に選手の写真も撮らないで、ずっと芝生を撮影したり、あぁこれは米松だ、南天だ、ハナミズキだ、と樹木や風景の写真ばかり撮って。でもその中で、あれ?これは日本にもある樹木ばかりだな?でもなんでこんなに見え方が違うんだろう?と不思議なところに気がつきました。
理由のひとつとしては、統一された世界観が演出されているからです。
オーガスタグリーンと呼ばれる濃い緑色でマンホールからゴミ袋、紙コップ、池の水の色や金具一本に至るまで、全てがその色で塗られている。俗世間とは隔絶した世界観を保っているんですよね。
そういう徹底された最高峰の場でもシッティングエリアを除きタバコはどこでも吸えるんです。タバコを吸いながら見回すと、タバコを吸っている人がいないんですよね。……自分ひとりだけでした(笑)。中には短パンにビーチサンダルのパトロン(ギャラリー)たちが、気軽にシガーを吸っていた光景も印象深く残っていて、とりわけその香りが強烈に残っています。
シガーの香りをかぐたびにタイムスリップして、マスターズのあのステージに立ったような気がします。」
スコットランドのCRAIL Golfing Socitey Balcomie Linksを視察。ゴルフ場はシガーと不可分の存在だった。
「僕の好きな映画でバガー・ヴァンスの伝説というゴルフ映画には、ゴルフのプレーシーンにシガーが出てきたりするんですよね。ゴルフしながらシガーを楽しむ事はOKなんだという事が特に印象深く残っていました。その様な、にわか知識のもと、マスターズに行った時に確信が持てて、ゴルフ発祥の地であるスコットランドのゴルフ場に行けば当たり前のようにクラブハウスで売っている。これはもうイーグルポイントにも絶対入れるべきだと考えました。
持ち帰った知識はすべてイーグルポイントにフィードバックしました。そのなかのひとつがシガーなんです。海外のゴルフ場では、シガーは切っても切れない関係にあると……。
そこでシガーについて知ろうと思い、製造過程から火の付け方、保管の方法……いろいろ勉強し、それをスタッフ全員に伝えていきました。
海外ではゴルフ場のクラブハウスに殆どシガーを置いています。でも、日本のゴルフ場ではシガーを置いているところはゼロなんです。イーグルポイントには日本で初めてヒュミドールを置きました。クラブハウスにはワインセラーがあるので、ヒュミドールはワインセラーに置いています。管理は申し分ないですよ。当然、シガーによく合うポートワインなども充実させました」
イーグルポイントゴルフクラブではどこでもシガーが自由に楽しめる。
「ゴルフ場の本場のスタイルを体験した感覚からすれば、タバコは分煙するだなんだとかそういう話じゃなくて、まずシガーだと。シガーをOKにする。そこから始めないと、と考えたんです。
メンバーの中にもシガーをやる方はいらっしゃったんですけれど、恐縮しながら吸っていた感があったわけですよ。『吸わせてもらう』のような。堂々と吸ってください、何故ならば自分のクラブ、自分の家じゃないですかと僕は言いたかった。
イーグルポイントではシガーはどこでも吸えます。ラウンド中でもクラブハウスでもレストランでも。
ドライビングレンジにはシガースタンドを置き、カートにはシガークリップを付けました。
シガーはタバコと違って、動くときは消さずに持ったまま歩くじゃないですか。だから、フロントにもシガー専用の灰皿を置いて、いらっしゃったときにすっと出す。そういう居心地の良さで、『ここは俺の住処なんだ』という感覚をメンバーに持っていただく。
そういうスマートなサービスひとつとっても、差別化だと考えています。
そういう事の積み重ねがあるべきゴルフ場の姿だと思うんです。ハイエンドのためのホスピタリティはこれだぞ、というものをしっかり提供する。それが最高のクラブライフを生むと確信しています。そして、こういったシガーに関する試みは、メンバーの方々に歓迎されました」
イーグルポイントゴルフクラブのドライビングレンジ。ベンチの隣にシガースタンドが見える。
「日本のゴルフクラブというのは、クラブの在り方の本質部分がずれているんです。〇〇ゴルフクラブ、〇〇カントリークラブ、など、いろんな名称がありますが、名ばかりでクラブの体裁をなしてないと思えるゴルフ場が殆どではないかと。あるべきクラブはコミュニティクラブの事。ゴルフを主体とした社交クラブ、異文化交流の場なんです。
言ってみればクラブのメンバーたちがコースの所有者みたいなもので、メンバー同士でふれあえる、息を抜ける場が正しいゴルフ場なんです。
クラブライフを楽しむ場所において、あれやっちゃダメ、これやっちゃダメっていうのは満足感にはつながりませんよ。
日本では食わず嫌いというものがあって、シガーもそれだと思うんです。シガーはタバコと同じものだと思われていますよね。一度体験すれば、全然違うものだということが分かると思います。
でもゴルファーのマジョリティの方々がタバコを吸う人なので、シガーというものにはものすごい興味を持っている。だからこそ禁止する前に、背中を押してあげる必要があるんだと。だから僕は逆張りの思考でいこうと決めました。
シガーは火をつけて吸い終わるまで30分から1時間がかかりますから、たまたま隣に座った人と場を繋ぐ意味で今日は何を吸ってるんですか?という気軽な会話なんかからシガー友達ができる。ゴルフというそもそものつながりでもう玄関をくぐってるわけですよね。そこからシガーでさらに深まる。この横のつながりがコミュニティになり、そういった部分でビジネスにつながっていくこともある。だからそのクラブに帰属する(会員になる)ベネフィットが生まれるんです。
つまりゴルフ場のメンバーになる、というのはそういったコミュニティの場がなければいけないんだと。シガーはその一助になればと、導入するに至ったわけです」
左は、スコットランドのゴルフクラブでもらったというEMSのチュボス。普段お目にかかれない代物だ。今回はCohiba Esprendidos '99を吸っていただいた。いつもはCohiba Robustoをよく楽しむという。
「バブルが弾けて、どこでもゴルフ場の予約が取れて気軽に楽しめるようになってきた。会員にならなくてもゴルフができるようになって、自分の周囲……つまり職場や友達同士でのゴルフが増えた、ということが出てきました。
それは良い事なのですが、本来のゴルフ場が提供しているコミュニティの場という部分が崩れかけているわけなんです。まずコミュニティというものがあって、そしてそのメンバーの皆さんと一緒にゴルフを楽しむ。またはマナーも含めて教えてもらう、これが大道です。
その振り子を逆戻しにさせるためのひとつのツールとして、シガーを導入していくのは重要だと思います。もっと深くなってもらいたい、もっとつながってもらいたいというメッセージがそこにあるんです。
ゴルフ場というのは大人の楽園です。そして、コミュニティクラブがゴルフ場の原点です。コミュニティというものがどうあるべきなのかという部分で、シガーはそのコミュニティを深めるためのツールの役割を果たします。
充実したクラブライフを過ごしてもらいたい。そうあってほしいと思っています」
趣味であるフライフィッシングのリールコレクションの棚には、シガートレイも。
「現在は、ゴルフ場をゴルフ以外の目的にも利用できる、サロンのような使い方を提案するという、プロデュースビジネスも進めています。
日本のゴルフ場約2400ヶ所はすべてバブル期にできました。そのなかでクラブハウスは当時お金をかけられて、とても素晴らしいものが造られたのですが、現在は半分くらい使われていないんですね。非常にもったいない話なんです。そのスペースは財産なんです。
その使い道のアイデアの中で、ストレッチルームやジム、インドアの練習場、サロンとして利用する提案もしているし、当然シガーというものも出てくる。ふらっとひとりで1日、時間が空いたから来て、コースを回るだけではなく、ゆったりとした空間の中でゴルフ以外の事も楽しめる大人の楽園を提供したいと考えています。そうそう、次回はリヤドロジャパン社長の麦野豪さんを指名させていただきます。あの方にシガーについてのお話を、いろいろ伺いたいですね」
飯島 敏郎(いいじま としろう)
1963年3月30日、東京都生まれ。1983年からゴルフ事業一筋。
バブル経済の前後からリーマンショックをはさみ今日まで培った豊富な実務経験に裏付けされた豊富なノウハウとプロデュース力で、多くのゴルフ場を成功に導いた。
現在は株式会社TPC代表取締役社長/CEO。ゴルフ場の経営コンサルティングとプロデュース業を行っている。
趣味はフライフィッシング、ゴルフ、合気道、セーリング、シガー。