Partagas Serie D No.5 '12

2015-11-13

世に高名なブランドであるパルタガスに「セリー」というラインがある。

通常とは趣が異なる直線的なリングを持つそのシリーズは、ゲージが太め・短めの手頃なサイズ展開がメインだ。

セリーは1930年代からイギリスのシガー市場で使用されていた名称らしい。A〜Dまでのアルファベットと1〜4までの番号の組み合わせで区別されたという。それらは60年代に一旦姿を消し、現代のHabanos S.A.社が蘇らせたものだという。

すべて曖昧な文末だが、それも仕方がない。Habanos S.A.は公式にセリーとは何か、どのような立ち位置なのか等、公式な案内は行っていないのだ。

ハバノスはそういうキャラクターなので、スモーカーは粛々と喫煙し、隠されたメッセージを読み解けばいいのである。セリーは通常のパルタガスとは違う葉のブレンドを行っているので、吸ってみれば一目瞭然。


さて、今回は少し趣向を変えて筆者がシガーを吸う際にどのようなアクションをとって、どのような点に気をつけているかを併記したいと思う。いつも特段気を配っているわけではなく自分には自然な行為なので、普段はとりたてて記さない事も省略せずに書いてみる。「How to Cigar?」もあわせて読んでもらいたい。

 

セリーD No.5は2011年にリリースされ、SBN10と25、またはアルミチューボ入り3本セットで提供されている。

SBN25本箱の中央から一本取り出す。これはCABだと特に顕著だが、周囲を葉巻に取り巻かれた一本は、とくに味が濃厚だからだ。シガーショップなどで今日の一本をお任せで選ぶ際も、箱のどの位置から取り出すかはちゃんと自分で決めた方が良い。外側、木に触れる位置のシガーはウッドの風味が強く比較的柔らかな喫味となる。

CABから吸う葉巻を抜く際は、一旦すべて取り出して蜂の巣のような葉巻の束の中央を軽く押し、真ん中から抜いていって吸おう。


コンディションを確認するために表面に触れ、撫で、押し、感触と質感を確かめる。湿度やドローの状態がある程度見極められる。ラッパーはマデューロで、表面は軽くこすれるような感触でオイリー。セリーはSBNに納められているのでボックスプレスはされておらず、すべてフットは丸い。

繊細なラッパーの美しさや色、巻きの技術も目で堪能する。

ドローはヘッドを切る前にフットを咥えて吸ってみるとよくわかるが、未購入のものに口を付けるわけにはいかない。だいたいは感触で分かるので買ってからにしよう。


手のひらに持って重さを確かめる。これは重すぎるとドロー不良、軽すぎるとフィラー不足のおそれがある。

サイズは50×110、D No.5(ペティ・ロブスト)。セポ(リングゲージ)50、長さ110mmで、ファクトリービトラ「D No.5」、ストアビトラ「ペティ・ロブスト」の意味だ。

キャップの巻き方を確認する。深くがっちり巻いてあって、ラッパーと同化しているかの確認だ。キャップがきっちり癒着していないと、吸っている最中にはがれてきたりカットしただけでほどけてきたりする。巻きたての若いシガーにとくに顕著だ。

鼻を近づけ香りを確認する。フットにも鼻を近づけて嗅ぐ。

象徴的なパルタガスの香りであるレザー、そしてウッド。


ヘッドにシガーシザーの刃を軽く立て、回す。これでラッパーだけに切れ目が入れられ、カットするときに押しつぶしてラッパーを割る事故を防げる。

切れ目を入れたらシザーを葉巻側にややテンションをかけ、一気に切断する。回し切りだ。

ここでフットを咥えて軽く吹く。ヘッドの切断面に残った切りくずや粉を飛ばし、喫煙中に口の中に葉の嫌な感触が入らないようにするためだ。


フットを焦がす。糖蜜。

ここで立ち昇る煙がその葉巻の最初の煙だ。必ずアロマを楽しもう。

喫煙前の着火で放たれる煙は、たいへん贅沢な、その葉巻が目覚めた最初のひと呼吸だ。これを楽しむために、スモーカーはちゃんと自分で葉巻に着火しよう。

 

フットをまんべんなく黒くなるまで炙る。ラッパーを焦がさないように気をつける。

火の先端を当てないようにじっくりとか物の本には書いてあるが、それはとくに意味がないことと思われる。長くゆっくり火を当てていると葉巻自体の水分がどんどん蒸発してしまう。素早く表面を炭化させ、着火しやすくしてやろう。(細い葉巻はその限りではない)


フット面全体に火が回ったら口に運び、喫煙する。

粗糖の甘み。柔らかなウッド、硬いレザーの塊、後ろに潜むペッパーのようなスパイス感。

フィラーに煙が染み付かない、冒頭のクリアな喫味を楽しむ。

ゲージが太く煙量に富んだそれはコクが深く、煙をはいたあとに上顎に膜のように残るアフターの余韻がコーヒーのような風味だ。

フルボディ。通常のパルタガスとは違う、セリーに共通した野太いタバコ感。強烈な旨み。


シガーレストに葉巻を置いて灰が落ちたら、強喫煙してみる。

灰に邪魔される事なく冷たい空気が燃焼を促し、タバコ葉を完全燃焼させる。現れる別の表情。

ホワイトペッパーを散りばめた凄まじい太さの木の幹。生肉を頬張るような蛋白質を感じさせる独特な味わい。アフターにどこまでも伸びる鞣し革。

このように喫煙に強弱をつけて楽しむ。序盤中盤終盤でシガーは味わいが変化するが、その折々で強弱をつけ、それぞれでの味わいの変化を楽しむ。クールスモーキングといわれる一本調子な喫煙はシガーのポテンシャルや楽しみを奪うことになる。


中盤くらいから吹き戻しもしてやる。灰を落とし、葉巻を吹くのだ。フィラー内部に滞留する煙を追い出し、クリアな喫味も楽しめる。

ねっとりとオイリーな喫味は牧草のようなアロマを醸し出し、レザーがどんどん存在感を増す。

旨みが舌の付け根を刺激し、あとからあとから唾液が湧き出てくる。誰が言ったか、葉巻は食べ物。見たり吸ったりすると唾が出てくる。言い得て妙だ。


終盤、フィルターの役割を果たしていた葉巻本体が短くなるので、吸気をコントロールしてやる。

煙は太く、ダイレクトになってくる。

肉のような味わいに加え、生烏賊のような風味が見え隠れする。

肉、烏賊がペッパーで味付けされた革の風味豊かな一皿。これはひとつの料理といえる。


ローストした深煎りコーヒー豆のような質感を残し、残り3センチ、50分で喫了。

濃厚で吸い応えのあるNo.5は、ランチの後にコーヒーとともに、ディナーの後にお酒とともに、場所や時間を選ばない秀逸なビトラだ。

吸いさしは灰皿に置いて、自然に火が消えるの待つ。臭いがわきでてくるので、吸い殻や灰は潰してばらさないようにしよう。

パルタガスの通常ラインとセリーを吸い比べてみると、色々な発見があって面白い。

バイアスのかかった宣伝文句や空論に振り回されず、自分の味覚と直感を信じ、奥深いシガーの世界を楽しもう。

LABEL : Partagas