Partagas Lusitanias '98

2017-06-08

現在のポルトガル、スペイン西部を支配していたルシタニア人は、ローマ時代屈強な傭兵として名を馳せていた。
その名を冠するこのシガーは、様々な文献や著名なシガー関係者がキング・オブ・シガーとして賞賛する。
ダブルコロナのその威容、名門パルタガスの旗艦であるその栄光に、嘘偽りはない。
失敗する事を許されない最も大きいシガーを任せられるのは工場内でも指折りの職人のみで、厳密に組み立てられたブレンドによって、選び抜かれた葉で巻き上げられる。

サイズはRG49×194mm、ビトラ・デ・ガレラ:プロミネンテス(ビトラ・デ・サリダ:ダブルコロナ)。名実共にビッグシガーだ。
1960年代から生産されており、2度のリング変更を経て50本入りSLB、25本入り化粧箱として販売されている。10本入り化粧箱は2007年に、3本入りペーパーパックは2003年に廃止された。

ダブルコロナの50CABは大迫力だ。入れられるジップロックも限られている。
経年変化したのだろう、やや濃いめのコロラドラッパー。表面は奥から染み出たオイルが全体を覆った痕跡が残る。
ラッパーは薄く葉脈も少なく、このサイズの一枚葉を惜しげもなく与えられたその豪華さは自ら輝いているかのようだ。
鼻を近づけると重々しいタバコ香を未だ発しており、キャビネットのリボンで締められわずかに湾曲した形と、変色した古い小さめの旧々リングが重ねてきた時間を物語っている。

フットを炙る。
白く朽ちたまま立っている杉の巨木が火を噴いた。
喫煙すると、黒糖カステラ。
非常に強いタバコ感、豪放なウッド、使い込まれた分厚いレザー。暖炉で暖められた古いログハウスにいきなり放り込まれた。
火で封印を破られた「時間」そのものが堰を切って飛び出してくるような感覚。
強烈なパンチで顔面を殴られたように、ぐわんぐわんと頭が回る。
ダークローストコーヒー、アーモンドの焦がした皮、ガス香、ぺったりと貼り付くような蜜の甘さ。そこにビンテージ感が畳み掛け、味覚の迷宮に迷い込んでいる。
うま味とコクは感触でもあるかのように分厚く、20年近く前のシガーである事が何かの間違いかのように瑞々しい。
ヘビーなニコチンなどの成分は長い時間をかけても水と時間と微生物は分解しきれず、芳香成分に入れ替わった余りがふんだんに残って渦を巻いている。
強喫煙するとドライマンゴーのじっとりした甘みとガス香が吹き荒れる。ひとつひとつ舌に感じるテイストははっきりとした輪郭を持って現れ、煙という気体ではない、ひとつの固体や液体のような感触で個々に舌が感じ取れる。


2回灰を落とす頃には、冒頭のショッキングな喫味はややニュアンスを和らげる。
フルボディでヘビーな喫味でも雑味など一切なく、非常にシルキー。顔をのぞかせてはまた離れてを繰り返す甘さと、背景に立つ無辺大のウッドは複雑に立体的でスモーカーを試してくる。
吸い進めるうちに甘みは濃厚になり、その手に絡めとられて前のめりにスモーキングしている事に気がつかない。豊富な煙量と変幻自在のテイストにシガーとスモーカーの境界はだんだんと曖昧になっていき、ついには彼我の距離はゼロになる。

葉巻が短くなると、内部も蒸れてきてまたぞろ強い喫味が顔を上げてくる。吹き戻しで喫煙をコントロールする。炒ったクルミと大麦、シダー、メタリックな色調。
鼻を抜けるそのアフターをはっきり掴もうと追うためまた煙を吸い込む、吐くを繰り返す機械に成り下がる。
焦がした穀物とオイル感は煙でなく食物だ。このトースト感……!

コハク酸のうま味を残して110分で喫了。
夢から覚めたと気付いた瞬間、またルシタニアスの蓋を開けている。

LABEL : Partagas 【Aged】