Davidoff Chateau Latour '79

2015-06-03

 
一番好きなブランドだ。そしていまさらキューバンダビドフの説明など必要ないだろう。
1962年に設立されたダビドフは1991年にブランドが廃止され、キューバを出ることになる。
国が変わった後のダビドフは、別ベクトルの「最高級」をめざし、その目的は達成されている。端正な葉巻の代表選手。
そしてキューバンダビドフは伝説となった。
 
希少な葉巻ゆえにキューバンダビドフは偽物が多い。
いくつか見分ける方法があるが、一番の特徴はリングだ。金の飾り枠はエンボスが打たれ、パテック・フィリップのカラトラバのベゼルのようになっている。
またそこから薄く放射状に溝があり、「CUBA」「HABANA」の印刷の上下には蔦のような模様が認められる。
しかしこれらは経年変化や古い印刷技術、またはキューバの愛嬌で消えている場合もある。この個体のように印刷自体が大幅にズレているものもあるので、一概には言えない。
 
さて、ダビドフ・シャトーシリーズのひとつ、シャトー・ラトゥール。
サイズは42×142、コロナス(コロナ)。
やや青ざめた褐色の薄く滑らかなラッパー。象牙色のリング。わずかに細い葉脈が走っている。経年劣化でキャップは少しめくれているが、がっちりと1センチ近く巻かれている。
色調はコロラド・クラロ。鼻を近づけると香りはわずかなウッド、古い日本家屋を彷彿とさせる。
ヘッドを破損させるのを恐れてパンチカットを選ぶ。枯れているのでドローは申し分ない。
 
ダビドフが巻かれていた時代への憧憬を駆け巡らせながらヘッドを炙る。
立ち昇る、豊かなアロマ。すでに夢の入り口が見える。
ひと吸いすると、腰の強い木質感に裏打ちされた鮮烈なビター。豆類の旨み。極上の古い香木、乾いた黒土、マホガニー。飛び跳ねる。喫味はミディアムフル。
 

1センチほど灰が伸びると、干した柑橘類の皮が顔を出す。ビターは穏やかに。
枯れてはいるが、痩せていない。それどころか、あまりのパワフルさに目を剥く。
真っ白い灰を落とし(灰のホールドは強い)強く喫煙すると、炸裂するように揮発する薔薇、ガス香。100年聳え立つ荘厳な神社が炎上したかのような、重厚な樹の燃焼。
古いグロリア・クバーナがごくたまに朧げに見せる薔薇の花園が、はっきりとくっきりと爛熟ともいえる生々しさで目の前に広がっている。
手を伸ばせば触れられそうなのに、それは遠い。無限遠。
そんな幻さえ見せるような陶酔。
 
中盤、薔薇の味わいはますます濃くなり、恐怖すらおぼえる。この葉巻が豊富にあった時代に率直に嫉妬を感じる。
コク、旨みは重ねた年数を全く感じさせないで衰えを知らない。カカオの強いチョコレートパウダー、燃える太い薪から染み出る木質の甘み、ほんのりビターのコーティング。わずかに花鰹。
言葉が足りない。
 
終盤、薔薇の花園は大木が生い茂り、メロウな、だが太くウッディが広がる。広大に広がる。
華やかなペッパーが立ち、終局に向けて命を燃やし尽くす。
時間を止めたい。
 
60分で喫了。
何度吸っても、キューバンダビドフには新たな驚きを禁じえない。
滅びの美学を語りかけてくる。

LABEL : Davidoff 【Aged】