Quai D'Orsay Baalbeck 2018 ER Líbano

2021-10-14

バールベックとはレバノンにある世界遺産に指定された古代遺跡。このシガーの名は、レバノンが誇るその世界有数のローマ神殿跡から命名された。

2018年リリースだったが、実際に市場に出回ったのは2021年に入ってからだった。
これにはレバノンの情勢が反映されており、政情不安のため販売が先送りされ、管轄するディストリビューターの倉庫で販売開始予定日以降も保管されていたためだ。それにしてもベイルート港爆発事故(2020年8月4日)に巻き込まれなくてよかった。

2回に分けて生産され、通し番号が1~1200、1201~2400とふたつのグループとなるはずだったが、先に販売する前半分が販売保留となっていたため、一気に全数が市場に出回ることになった。このように半分ずつエディシオン・レヒオナルが販売されるのは他にも例がある。

ケ・ドルセーといえばフランスERが定石だが、今回はレバノンである。フラン委任統治領だった過去からという考えは面白いが、葉巻自体はもっとユニークだ。
サイズはRG54x140mm、ビトラ・デ・ガレラ:デューク(ビトラ・デ・サリダ:ロブスト・エクストラ)。パルタガスの名作セリーE No.2ボリバー ソベラノスと同じビトラだ。
ケ・ドルセーの金とオレンジのスタンダードリングに、ダブルリングとしてERの赤銀のリングがつく。50本入りSLBが前述のように2400箱生産された。

葉巻を観察する。特徴的なのはその香りだ。ブランドのイメージを凌駕する、濃いレザーの芳香。しかしパルタガスとはベクトルが異なる。

ラッパーは濃い目のコロラド・マデューロ。美しく、オイリーな外見だ。
太いヘッドをばっさりカットし、広いフットに火を回す。
レザーとウッド、フローラルなニュアンスも感じる煙が昇る。

喫煙する。事前の予想を覆す。レザーの強い当たりかと想像していたが、華やかで、まろやか。力強さを秘めているが、ガツンとくるというわけではなく広い面で押してくるようなタッチだ。レザー、フローラル、アメリカンコーヒー、マンダリンオレンジ。
豊かなフィラーの量を余すところなく活用し、重層的な味わいを実現している。その立体感はオーケストラを彷彿とさせる。蕎麦蜂蜜、干し草の小さな焚き火、コニャック感。コクがあるがアフターはさっぱり。ミディアムライト。


中盤はカラメルビスケットとカシューナッツが伸びてくる。
煙量が豊かでグアニル酸のようなうま味が強いので、味蕾がバカになったかのように唾液が溢れる。蒸し栗のようなニュアンスも。
喫感はやや太くなり、多彩な変化のまだ途中。

リングを外して終盤、フローラルと栗が炸裂する。
ブローすると燻製ナッツの香ばしさ、輪郭まではっきりとわかるような鮮やかさ。
硬軟の効いた振幅のある変化が楽しめ、ヘーゼルナッツや、ミルクチョコ、タルカムパウダーが顔を出す。60分で喫了。

ケ・ドルセーの表情を保ちつつも、力強さとさらなる華やかさを兼ね備えた驚くべきシガー。
ERはただそれだけを吸っても充分に美味いが、元となるブランドを押さえておけば、その美味さが「理解」できるのでスタンダードラインナップの把握は外せない。
このERはブランドの特色からいい意味で逸脱しているので、それはさらに顕著なものになるだろう。

LABEL : Quai d'Orsay 【Edicion Regional】