コラム|はじめては特別

2015-12-16

はじめて吸った葉巻を憶えているだろうか。スモーカーにとっては、きっと思い出深いビトラだろう。何人かで葉巻を囲んで語らうとき、興味を引かれる話題のひとつだ。
その葉巻をなぜ手に取ったのだろう?その葉巻を吸ったときどう思ったのだろう?
理由もなく選んだのではつまらない。趣味の世界では、はじめこそが大切だ。

「みんなのコレクションミュージアム」がテーマのウェブサービス「Muuseo」(ミューゼオ)は、持っているコレクションでウェブ上に自分だけのミュージアムを作れるサービスだ。コレクションをずっと楽しむことをサポートしてくれる。
ミューゼオ・スクエアは“モノを「使う」「育てる」「集める」は、こんなに楽しい!をコンセプトに、モノにこだわりのある人を取材し、モノとその人のストーリーを紹介するサイト”だ。
凝り性が多いスモーカーならこのサイトをすでに知っているかもしれないが、先日シガーについての取材を受けた。

初めてシガーを吸う記者の方にシガーの紹介や愉しみ方をお話しするという内容だ。
やってみると、これが非常に難しい。
葉巻を愉しむのに、葉巻の成り立ちから理解する必要はないが、その構造や葉巻の選び方、喫煙の方法を頭の中にあるものから言葉にするのは慣れが必要だ。

だが、何といっても一番頭をひねるのは「どの葉巻をすすめるか」だ。

もちろん、何も知らずとも受け取った葉巻を吸ってみる事は簡単だ。
しかし、趣味の世界というのは一度だけで終わりではない。ずっと続いていく。
例えば運転免許を取りたてで、初めて乗る(買う)車に何を選ぶかで、その後の車への考え方がほぼ決まる。

どうせ初めてじゃぶつけてしまうだろうし、何でもいいので練習と考えて廃車寸前の安い軽自動車を。
初めてだから車の深い世界を知りたい。趣味に走ってるかもしれないし、安くはないけれどこの車を。

前者は車を降りるその日まで、車というものにそこまで興味が持てないだろう。
葉巻でも酒でも嗜好品は、一番最初は良いもの、できれば最高のものを体験するべきだ。とりあえず下から、ではじめると、こんなものかで終わってしまい、その思い出が邪魔になってもう手が伸びなくなってしまう。最悪、たいしたことがないとけなし始めるケースもある。嗜好品は精神的充足を求める手段でもあるので、どうしても気持ちで左右されるのだ。
だから「はじめてのシガー」にはハバノスをいつも勧める。シガーの起源、オリジナルを味わってもらい、それをレファレンスとしてもらうためだ。

さてハバノスには多数のブランドがある。その中にも多くのビトラがある。どれをおすすめするか、これがスモーカーの腕の見せ所だ。

「初めてなら、軽めのものがいいでしょう」

初めての葉巻を選びにショップへ行った際、このように答えられたらお店を出た方が良いだろう。これは0点だ。葉巻、いや味覚に訴えかける嗜好品全般について何も知らないと言っているのと同じになってしまう。
初めてなら軽いものがいいのだろうか。否。初めては、その人の味覚に合ったものを選ぶべきだ。
初めての葉巻を選ぶ前に、私は必ずいくつか質問をする。コーヒー派か紅茶派か。酒の嗜好は何か。甘党か辛党か。
何種類かあるが、質問の意図は普段口にするもので強いものと弱いもの、どちらのボディを好むかにある。
ソムリエが客の好みを聞かずにいつも軽いワインを出していたら、客はおそらくテーブルを立つだろう。当然の話だ。

ボディが決まったら、ビトラリオでいくつかのブランドが絞れる。このなかでゲージが大きめで、短くないものを選ぶ。
理由は簡単だ。シガーは長く太い方が、フィラーがフィルターの役目を果たす。初心者が簡単そうだとまず手に取りやすい短いシガーは、テイストがダイレクトで吸入のコントロールが難しい。
また細巻きのシガーも同じように燃焼のコントロールが難しい。パナテラ等は葉巻の喫煙に慣れたスモーカー向きのビトラだ。初めて葉巻を吸ってみようとする人がシガリロに手を出し、一本だけ吸ってそのまま二度と手をつけない理由はここにある。

いくつかの理由から、今回の取材にはHoyo de Monterrey Petit Robustoを選んだ。もうひとつの選択肢としてFonseca KDT Cadetes。「とりあえず軽いもの」を勧めるタイプのチョイスと同じような感じだが、こちらはアプローチが違う。

さて、取材の話である。意気揚々とシガーの話をして、カット、着火とシガーの吸い方をレクチャーするも、大きな落とし穴があった。記者の方が女性で、Petit Robustoのゲージがやや大きいのだ。
口を大きく開けると、人間は強制的に肺呼吸になる。そこまでのサイズではなかったが、確かに吸いにくい。Fonsecaを用意していて良かった。吸い比べでテイストやアロマの違いも理解してもらえたので、結果よしであった。

初めてのシガー選びは、気が抜けない。それはこれから先に待っている楽しみへの道を潰す危険をはらみ、新しい趣味の発見で豊かなライフスタイルを提供する事もできるのだ。
あなたははじめて吸った葉巻を憶えているだろうか。

 

Text by Tatsuya Igarashi