コラム|東京都受動喫煙防止条例とシガーバー

2019-05-13

東京オリンピックを見据えて話が上がり、やっとすべてまとまった東京都受動喫煙防止条例。
シガーバーの存続を危ぶむ声があったが、当初からとくに問題だとは考えていなかった。
むしろ趣旨はスモーカーにとって追い風だと見ていたが、ようやく詳細が告知された現在、それが確かなものだったと認識している。
多くの方にとっての関心事だと思うので、都のホームページでは別のページで重複する文がいくつも出てきてわかりにくいものを、スモーカーやシガーバーが気になる点について以下に抽出した。

対象となる施設:
条例の概要:
対象施設に関してのQ&A:

要点としては、「全面禁煙」となる第一種施設、「喫煙専用室が置ける」第二種施設、「喫煙のみ」の喫煙目的施設の3つに今後分けられます。(「分煙」という概念はなくなります)

>第二種施設
「2020年4月1日の時点で従業員を使用していない東京都内の既存店舗は喫煙可能室を設けることができます。喫煙可能室では飲食と喫煙が可能です。2020年4月1日の時点で従業員を使用している東京都内の既存店舗、及び2020年4月1日以降の新規店舗(従業員の有無や東京都内かどうかは関係なし)については喫煙専用室のみ設けることができます。喫煙専用室では飲食は不可です」


どのような設備が必要か:
①出入り口において、室外から室内へ流入する空気の気流が、0.2m毎秒以上であること
②たばこの煙が室内から室外に流出しないよう、壁、天井等によって区画されていること

>喫煙目的施設
下記の条件を満たした施設は喫煙専用施設です。第二種施設とは違い、従業員の使用可能、飲食可能、前述の設備は不要です。別の類型となるので、andではなくnotです。
都は「いわゆるシガーバー、スナック、たばこの販売店」はこれに当たるとし、シガーバーの要件を以下の通り定義しました。

①たばこの対面販売(「※出張販売を含む」)をしている
②飲食を提供する
③喫煙目的施設であることの入り口での明記

ここから具体的な話です。
条例の概念は以下のように考えられます。
1)喫煙者と非喫煙者のインシデントを今後発生させないために「分煙」という意味のない概念を無くす
2)以前も喫煙可能だった飲食店が施行以降も可能となるよう配慮

1)については、今回の条例施行で喫煙者と非喫煙者は完全に分断されるので、今後は煙について非喫煙者が屋内でたばこの煙を目にする機会は無くなります。スモーカーは大手を振って喫煙ができることになりました。

2)については、シガーバー等は「①たばこの対面販売」がネックになるように見えますが、(「※出張販売を含む」)が盛り込まれているところがミソです。
たばこ販売に関する法律は非常に古いので、販売許可を取るには非常に面倒な立地条件があります(建物の一階でないといけない、正面はガラス張り、等々…)。
なので、旅館や劇場など立地の条件が満たせない場所でたばこを販売することが「出張販売」として認められています。
小売免許を持っている販売店・業者がその場所を申請し、その場所で「出張販売」を行っているとして、その場所の運営者がたばこ販売を行うことが可能なわけです。
これをやれば「喫煙目的施設」と名乗れるわけですね。
出張販売申請は距離などに関係せず、どこがやってもOKです。つまり近所のたばこ店や、たばこ小売免許を持っている葉巻の卸業者でもOKなわけです。お願いしてみましょう。

下記、出張販売について主な点を抜粋します。

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・たばこ小売販売業の出張販売許可申請
たばこの出張販売とは、たばこ小売販売業者が、許可営業所以外の場所へ出張して販売を行う形態で、劇場や旅館、飲食店、事務所内等で、その施設を利用する人を対象にたばこの販売を行うことをいいます。

・出張販売の許可を取得できるのは
出張販売の許可は、前提として小売り販売許可を有していることが必要になります。
出張販売のみの許可は取得することができません。

・設置箇所の条件
・劇場、旅館、飲食店、駅、海水浴場(海の家)、祭礼等閉鎖性があり、かつ、喫煙設備を有する消費者の滞留性の強い施設

必要書類
・出張販売許可申請書
・出張販売場所の位置を示す図面
・同意書(販売先が自己所有の場合は不要)
・未成年者喫煙防止に係る誓約書(販売先が自己所有の場合は不要)
・申請手数料無し・登録免許税3000円

その他
・申請書の受付窓口はJTとなります。

たばこ出張販売に関連する条文集
たばこ事業法(抜粋)
(許可の条件等)
第24条 財務大臣は、第二十二条第一項の許可に際し、許可の条件又は期限を付し、及びこれを変更することができる。
2 前項の条件又は期限は、第二十二条第一項の許可の趣旨に照らして、必要な最小限度のものでなければならない。

(出張販売)
第26条 小売販売業者は、その営業所以外の場所に出張して製造たばこの小売販売をしようとする場合においては、財務省令で定めるところにより、その場所ごとに、財務大臣の許可を受けなければならない。
2 第24条の規定は、前項の許可を与える場合について準用する。

たばこ事業法施行規則(抜粋)
(小売販売業者の出張販売の許可の申請)
第24条 小売販売業者は、法第26条第一項の許可を受けようとするときは、別紙様式第二十一号による出張販売許可申請書を、会社の営業所を経由して、管轄財務局長に提出しなければならない。
2 前項の場合において、小売販売業者は、次に掲げる書類を添付しなければならない。
一 出張して販売しようとする場所が自己の所有に属しないときは当該場所で製造たばこを販売することができる旨を証明する書類
二 出張販売場所の位置を示す図面(自動販売機を設置する場合には、自動販売機設置予定場所を明示したもの。)
三 小売販売業者以外の者が営業又は管理を行う場所を出張販売場所として自動販売機を設置しようとするときは、第19条第一号リに掲げる書類

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施行開始日などについてはこちらがスケジュールです。

さて、これでJTが作り出した「分煙」という意味のない謎の概念は消え、喫煙専用施設と禁煙施設という完全な住み分けが生まれた。
これにより不幸な事故はもう起きることはないでしょう。この条例の話が出てきた当初からSNSなどを通じて伝えてきた通り、受動喫煙防止条例はスモーカーにとっての追い風であるということが実際のものになりました。

本当に喫煙を締め出す気なら、欧米圏と同じく「屋内禁煙」など簡単で画一的なルールにするわけですが、条例は細かいルールを設けてスモーカーを守る動きが読めるものです。
条例のインパクトをそのまま鵜呑みにせず、内容を確認すると歓迎すべきものということがわかります。


Text by Tatsuya Igarashi:Twitter FaceBook