コラム|コロナ禍における喫煙目的店宣言

2021-01-08

事態は急転した。

オリンピックに向け東京都が発した受動喫煙防止条例と、足並みをそろえ内容をほぼ同じくする国の法律である改正健康増進法が2020年4月に施行された。
屋内原則禁煙により飲食店が次々と禁煙化し、それにより来客数が激減する中、追い打ちをかけるように同4月には未曾有のコロナ禍により緊急事態宣言が発出され、町に人の影は絶えた。

人出の減った町では飲食店が危機的状況に追い込まれている。いや、すでに閉店を余儀なくされた数は枚挙にいとまがない。そして、2度めの緊急事態宣言。

時短営業に協力する店舗へは協力金を出す、と国は言うが、店舗を存続させる額までには届かない。そもそも、テレワークの拡充が広がれば広がるほど、人出は少なくなり飲食店の来客数は落ちていく。
日々売上を重ねることだけが、飲食店の命脈。これに尽きる。これが政策により断ち切られようとしている。いや、たったいま断ち切られた。

棄民となった飲食店は自己防衛せざるをえない。
状況とは真逆に急成長するデリバリーに活路を見出す店舗も多くあるが、そこに投下できる投資体力がすでにない店舗、それ以前にデリバリーに適さない形態の喫茶店や夜の飲食店なども多く存在する。



飲食店は模索を続けている。このコロナ禍を生き残り、さらにコロナ禍が過ぎたあとも集客を続けられる手法、手段、対策を。
ここにひとつの選択肢がある。ウィズコロナという言葉が流行りだが、「ビフォーコロナ」へと戻す選択肢のひとつだ。


カフェチェーン『セガフレード』の“喫煙目的店”。コロナ禍で大きな反響

“全面喫煙が可能な「喫煙目的店」5店の売上は、対前年同月比で71~100%まで戻っており、依然コロナ禍が続いていることを考えると、むしろ好調だといえる。全面禁煙にした店では同36~39%しか売上が回復していないことを見ても、やはり喫煙目的の客が多く来店していることが窺える。”

実は【たばこの対面販売(出張販売を含む)免許を持ち】なおかつ【通常「主食」と認められる食事を「主として」提供しない】のふたつの項目を満たせば「喫煙目的店」として認められ、今まで通り来店客の喫煙は可能である。(他に「未成年入店禁止」など附則の項目がある。)
しかし、自治体の条例と国の法律が奇妙に被り、その内容も法律用語の羅列で一般には理解し難い。これにより、ほとんどの飲食店が店舗を禁煙化してしまったのが実情だ。
ほとんどの飲食店が禁煙化したことにより、あぶれた喫煙者は街角の喫煙所に列を作り、缶コーヒーや缶ビールを片手にコンビニや公園、路上で喫煙している。喫煙目的店化した店舗はその商圏でそれら顧客の総取りとなった。

この優良客を呼び戻すのである。
(飲食店経営者には周知の事実だが)客単価の高い喫煙客を取り込むには、喫煙ブースや喫煙所など形だけの設備では意味がない。店内に呼び戻すのである。



今年1月5日から、「一般社団法人日本シガーバー協会」が活動を開始した。

一般社団法人日本シガーバー協会 協会の活動の開始に際して

これは入会すると、たばこの出張販売の免許申請を行う外部団体を斡旋し、喫煙目的店化のサポートをする協会である。


喫煙目的店化のための免許申請は現在も行政書士や代行会社が行っているが、費用が数万円から数十万円かかったり、東京23区や大都市圏限定など、ネックが多い。
しかし、日本シガーバー協会は「入会金3000円(これは登録免許税3000円に充てられる)、月会費1000円(法律条例が守られているかの保健所の抜き打ち検査対策にサイト上に店名リストを掲載・維持する費用)」でそれを行う。外部団体からの別途請求はない。そして地域によるサポートの可否はない。日本全国対応だ。
なぜそのようなことが可能かというと、JT(日本たばこ産業株式会社)が賛助会員として協会に名を連ねているからに他ならない。


たばこの出張販売の免許申請は窓口がJTで、認可のための現地調査(車庫証明取得の際のチェックに似ている)にはJTの検査官が派遣される(このあたりの一連の流れは別の形でまとめて解説したいと思う)。
そのため、料金面や規模などで非常に大きなアドバンテージがあるのだ。


この選択は協会の目標にも沿うものだと考えている。あくまで法律条例の範囲内での行いであり、双方の目的は合致している。
“喫煙者が安心して吸える環境を整えることにより、非喫煙者の権利も守られる”
喫煙目的店は非喫煙者を守るために法律で作られた枠組みであり、もっと積極的に推進されるべきもののはずだ。

まるで提灯記事だ、と揶揄されそうだが、それで構わない。
切迫した、窮地に立たされた、限界の、あらゆる言葉で表現される飲食店の現状を打破するための選択肢を広げられるなら、提灯記事でかまわない。
今この瞬間にも、全国の数多くの飲食店は懸命に頑張っているのだから。

 

Text by Tatsuya Igarashi:Twitter FaceBook

2021-1-18 更新