アンクル・サムがハバノスを吸う日

2016-07-04

「キューバのシガーは今後どうなるのでしょう」

キューバ危機に端を発した1961年のアメリカ・キューバの国交断絶から54年。2015年、双方の大使館が再開され、両国の国交は回復された。それからこの質問を多くもらっている。

両国の歴史的背景や冷戦に関する考察は抜きにして、「シガー」という観点からこれからを考察すると、大きな変化が緩やかに起きていくというのは間違いないだろう。

フロリダから目と鼻の先にあるキューバはアメリカにとっては裏庭のような立地だ。もともとはアメリカの傀儡政権バティスタが実権を握り、ラスベガスもかくやという繁栄を誇った一大観光国は、マフィアと国家が主導して投資が行われホテルやカジノが立ち並んでいた(キューバとの国交断絶後、そのマネーはラスベガスに流れた)。

スペインが持ち出し、イギリスが発展させたシガー文化はもちろんアメリカも受け継いだ。地の利もありハバノス(キューバシガー)はアメリカが最も親しむこととなり、巨大な消費圏を形成した。

だがその後、ケネディ大統領の発した禁輸措置のためハバノスはアメリカ国内に入らなくなり、多くのタバコメジャーは南米ドミニカ・ニカラグア・ホンジュラスに資本を投下し、大規模なタバコ農場を作り上げノンキューバンシガーでアメリカ市場のニーズを補った。

世界の富の多くを握るアメリカであっても、ハバノスは手に入らない。代替品であるノンキューバンシガーはアメリカ以外の世界シェアはそこまで伸びず、已然世界で最大の売り上げを誇るシガーはキューバの葉巻専売公社ハバノスS.A.のものである(キューバシガーがハバノスと呼ばれるのはここから来ている)。

シガーの人気が非常に高いアメリカにとってハバノスはとても魅力的なものだ。そしてキューバにとってもアメリカの巨大な市場は無視できない。

資源の乏しいキューバは、過去に砂糖のバーター取引でソ連から石油を調達していた。その後のソ連崩壊で経済に大打撃を受けたキューバは南米の支援国の協力で危機を脱したが、シガー・コーヒー・酒類そして観光という産業のポートフォリオはほとんど変化していない。シガーはキューバにとって国を支える重要な基幹産業なのだ。

 

アメリカでは、すでに100ドルまでのハバノスの持ち込みが解禁されている。

販売はまだ許可されていないが、水面下ではハバノスのアメリカ国内での取り扱いについて両国は調整を行っているはずだ。その顕現のひとつとして、米国食品医薬品局(FDA)の動きが挙げられる。FDAは2016年6月に、今後新しく国内で販売されるシガーと2007年2月15日以降に国内で販売が開始されたシガーについては、FDAの新たな承認が必要となることを発表した。これは違法にハバノスが国内に流通する事を防ぐための措置だと思われる。

すでに門戸が開かれたアメリカに、今後ハバノスが流れ込むのは想像に難くない。

モンテクリストの香りをかぐオバマ米大統領。

ノンキューバンシガーでは、各国の農園で収穫されたタバコ葉のブレンドリーフによるシガーが主流を成している。これは単一国だけでのピュアリーフでは需要に応え切れない事がひとつの理由だ。ハバノスS.A.をはじめ各社の発表では、シガーの生産量は年々上昇している。

そして重要なのはハバノスS.A.はイギリスのインペリアル・タバコの傘下となっている現在、キューバンリーフをインペリアル・タバコに提供することも事実上可能な状態となっていることだ。同傘下にはシガー企業であるタバカレラがあり、アメリカでの販売を行っている。

その製品がアメリカへ輸出される事も不可能ではない。

ハバノスS.A.はキューバ国内に無数にあったシガー企業を集約した国営企業クバタバコが前身となっている。90年代の深刻な経済危機から、2000年にスペインのタバコ企業アルタディスがハバノスS.A.の株式の半数を取得した。

そのアルタディスは2008年、世界のタバコ産業シェア4位のインペリアル・タバコに買収され、完全子会社となっている。

アルタディス、アメリカでシガーの販売を行うタバカレラもインペリアル・タバコの傘下だ。

直接また間接的にアメリカへキューバリーフを使用した製品が輸出されるようになると、どのような変化が考えられるだろうか。

想定されるのは品不足だ。

ハバノスはハバノスS.A.から主にヨーロッパの大卸へと渡され、そして卸業者を経て直営店たるラ・カーサ・デル・ハバノやシガー専門小売店、タバコ店へと卸される。

長い歴史を持つ卸が幅を利かせているヨーロッパ系のショップに優先的にシガーは流れ、規模の小さいマーケットへは後回しにされる。国によってキューバシガーの確保量が違うのはこれが原因だ。

アメリカへシガーを提供するにはこのパイを拡大しなければならないが、一番想定されるのはハバノスS.A.が生産を増加させる事だ。

農業や生産工場の合理化・効率化が考えられるが、ノンキューバンシガーのように他国のブレンドリーフを使用して生産を拡大させる方法も捨てきれない。

2016年2月にハバノス S.A.バイス・プレジデントに就任したシントラ・ゴンザレス氏。今後の動きが注目される。

キューバンリーフのみを使用したシガーがハバノスS.A.の特色であるが、メインであるグローバルブランド(コイーバ、ロメオ・イ・フリエタ、モンテクリスト、パルタガス、オヨ・デ・モントレイ、アップマン、ピエドラ、キンテロ)以外のブランドをブレンドリーフへと変えていく可能性は否定しきれない。

もちろん、伝統を崩すのはハバノスという強いブランドを低下させる懸念がある。だがアメリカ向けに新たなラインナップを作る事は難しい事ではないだろうし、株の半数を支配するアルタディス、そしてインペリアル・タバコの意向は今後無視できない。

このような事は起きてはほしくないが、商業製品としてシガーが存在しているのも確かだ。

 

品不足か品質の変化か。それとも関税などで統制するか。

いずれにせよハバノスS.A.が大きな岐路に立たされているのは間違いない。

アンクル・サムがハバノスを吸う日はそう遠くない。キューバ国交正常化にともない、アメリカを起点にしたハバノスの大流行は止めようもない潮流になるだろう。そしてそれが日本に波及するのは火を見るよりも明らかだ。

世界中のスモーカーと上位3社のタバコメジャー、フィリップ・モリス、ブリティッシュ・アメリカン・タバコ、JTはアメリカとキューバの一挙手一投足を固唾を飲んで見守っている。