米国人のキューババカンス皮算用

2015-06-29

米国の旅行業界は半世紀以上にもわたり、海のすぐ向こうにあるキューバをじっと見つめてきた。

◆旅行業界の動き活発

オバマ米大統領は昨年12月、キューバとの国交正常化に向けた交渉を開始すると発表した。それ以降、今年5月末に米国がキューバのテロ支援国家指定を解除するなど、前進の兆しが見えている。かつて米国人の最高のバカンス先だったキューバが再び有望な市場になる可能性が高まっており、旅行業界の動きが活発化している。

旅行者向け貸室仲介のエアビーアンドビーは、4月初めにキューバ進出を発表。その後、キューバにおける同社の登録施設数は倍増し、現在では約2000カ所を数える。外交交渉の進展に伴い、米国-キューバ間の旅行市場のポテンシャルに対する航空機、クルーズ船、フェリー業界の期待が高まっている。

ジェットブルー航空のシニアバイスプレジデント、スコット・ローレンス氏は「もし明日何かが起こったとしても、航空機を飛ばすために必要な準備は全て整っている」と述べる。同社は2011年から、フロリダ州の2都市とキューバを結ぶチャーター便を運航。7月3日からはニューヨーク発キューバ行きのチャーター便も開始する予定だ。

 現在のところ、キューバへの渡航が政府に許可されるのは、家族の訪問、宗教やスポーツに関連する旅行、学術研究、報道、人道的プロジェクトなど12のカテゴリーに限定されている。それ以外の大半の人々は1962年に発動した経済制裁に違反しようとはせず、彼らがキューバに渡航する手段は途絶えた状態が続いている。そのため、キューバの魅力-常夏のビーチ、味わい深い葉巻、オールドカー、かつてアーネスト・ヘミングウェーの行きつけの店で供されたダイキリなど-のマーケティングは、まっさらな状態から始まることになる。米国人はキューバの経済システムをよく知らず、そのこと自体がバカンスの売りになるかもしれない。

 非営利教育団体のワールド・アフェアーズ・カウンシル・オブ・フィラデルフィアのクレイグ・スナイダー理事長によると、キューバ政府は、全面的な渡航解禁後に毎年1000万人の米国人が同国を訪れるとみている。部分的な規制緩和が実現した今年の渡航者は100万人と予想されており、最終的にその10倍まで増える計算だ。

 ◆定期便復活に意欲

 現在キューバを訪れる外国人は約300万人で、その多くはカナダや西欧からの旅行者だ。キューバ国家統計局が5月末に公表したデータによると、同国への年初来の渡航者数は前年同期比で14%増加。主にカナダからの旅行客が増えている。

 ジェットブルーは既に、フロリダ州フォートローダーデールを“拠点都市”(準ハブ空港)にするために動き始めている。同社が目指すのは、両国政府のゴーサインが出たら一番乗りでキューバへの定期便を復活させることだ。キューバとの間で週に20便近くチャーター便を運航しているアメリカン航空も、カービー社長いわく「キューバ行きのサービスを開始したくてたまらない」状態だ。

 デルタ航空は12年に、採算が合わないことを理由にキューバ行きのチャーター便の運航から撤退したが、今もこの市場に復帰する用意はある。同社でチャーター便事業のゼネラルマネジャーを務めるマイク・ローリー氏は、最近の社内ニュースレターで「われわれはキューバで事業を行うために知っておくべきことを学んだ」と述べた。

 マイアミを拠点とする新興企業イースタン・エアラインズは、チャーター便事業を通して財務を強化し、定期便サービスの開始を見据えてオペレーションの経験を積んでいる。同社は5月、マイアミとキューバの3都市を結ぶチャーター便を月当たり65便追加する方針を明らかにした。首都ハバナ行きは1日2便を予定している。

 米国人旅行者はこれまでも、カナダ、メキシコ、ジャマイカなど米国の経済制裁の影響を受けない国を経由してキューバに出入りしてきた。また、キューバへの渡航を許可された人が南フロリダ発のチャーター便で往復する場合、非常に短距離のフライトではあるが、最低400ドル(約4万9360円)ほどの料金がかかる。

 航空各社のライバルになるのがフロリダ海峡を横断するフェリー便だ。米財務省は5月、複数のフェリー会社にキューバ便の運航開始を許可した。許可を得た企業の一社、ハバナ・フェリー・パートナーズは5月、自社のフェイスブックページに「フェリー便の就航はいつかという問い合わせが相次いでいる」と投稿した。同社はフォートローダーデール発の高速フェリーの運航を計画中である。

 アメリカ・クルーズ・フェリーズはマイアミ発のフェリー便を週に3便運航する方針で、年内のサービス開始を希望している。同社の弁護士のジェームズ・ウィゼナンド氏によると、9時間の夜行フェリーで料金は約450ドルと、チャーター航空便と同程度の料金になる見通し。