Aman Tokyo シガーラウンジ|真のラグジュアリーとは
2015-10-14
2014年12月、アマンリゾーツ初の都市型ホテル「Aman Tokyo」が東京・大手町にオープンした。
アマンリゾーツの手掛けるリゾートホテルは、その世界観とホスピタリティが「アマンジャンキー」というアマン中毒患者を生み出し続けているという。
そのAman Tokyoのバーラウンジである「The Lounge by Aman 」に、シガーラウンジができたという噂はかねがね聞いていたが、開業から一年近く経って今回が初の訪問となった。
エントランスへのアプローチは、わかりにくい。
大手町タワーの下でタクシーを降り、照明の暗い道を進むと、右手に「大手森」が見える。
The Cafe by Amanに突き当たり、進路を右に取ると、控えめで一見を拒むかのような、まるで隠れ家バーのようなエントランスが見えてくる。
エントランスを開けると複数のスタッフが笑顔で出迎えてくれ、行き先を尋ねられる。
「シガーラウンジ」と伝えると、奥のエレベーターを案内される。
ホテルロビー直結、33階まで数分で到着し、エレベーターを降りると目に飛び込んできたのはひたすらに高い天井の、おおよそ現実離れした広大な空間であった。
聞けば、実に28mの高さがあるという。シガーラウンジの席の準備ができるまで、ロビーで少々の時間待つことになるが、呆気にとられてぼおっと天井を見ていた。
席の準備ができると、シガーラウンジに通される。
喫煙者の肩身が狭い昨今、いくらAman Tokyoといえども有り体な空間なのだろう、と思いきや、広く、そして実に落ち着いた、センスの良い静かな空間が待っていた。
遠くに東京スカイツリーこそ見えるものの、夜景のクォリティは決して高くない。
東京で夜景を見ながら、というシチュエーションであれば、東京出身者でも東京タワーを眺めながら時を過ごしたいものであるが、ここAman Tokyoのシガーラウンジからは見えない。
喫煙を諦め、禁煙フロアに移るしか実のところ手立てはないのだ。
今回、「何か適当なカクテルを」といういつもの流れではなく、「イブニングデザート by Aman」というメニューを事前にオーダーしておいた。
21時から、数種類のスイーツとシャンパンカクテルがAman Tokyoの贅沢な空間で楽しめる。
甘いものと葉巻の相性は言わずもがな、であるので、Aman Tokyoの世界観と葉巻を効率よく楽しみたいのであればチョイスせずにはいられないメニューである。
シガーは「La Gloria Cubana Inmensos '11」を持ち込んだ。
2010年にLCDH限定でリリースされた葉巻であり、リンゲージは54の長さは16.4cm、サブライムというビトラのかなり大型のシガーである。
着火すると、馨しい穀物の芳香が立ち上がる。一口吸い込むと、抵抗なく余裕を持ってたっぷりとした煙が口腔に流れてくる。筆者は細く長い葉巻が好みであるが、このサイズの葉巻はおおらかさと余裕があり、また違ったベクトルで楽しめる。
ドローイングに神経質になる必要が無いので、ある意味こういったラウンジでゆったりと吸う葉巻として適切なのかもしれない。
何口か味わっていると、カクテルが供される。10月は和梨とシャンパンのカクテルとのことだ。
季節感を重視したフルーツ選びも、その土地の文化をリスペクトし、高度に昇華させサービスに取り入れるAmanらしいセレクトである。
後ろを振り向くと、大ぶりのソファとテーブルが配置されている。しかし、天井が高い。
高い天井は心に余裕をもたらすと思う。
こんな空間で、複数人の仲間とシガーを燻らせてみるのも極上のエクスペリエンスだろう。
壁には埋込み式のヒュミドールが鎮座している。
中身を見せてもらったが、さすがにレアシガーも豊富に取り揃えている。
Partagas Lusitanias Gran Reserva(13,000yen)などは、他店ではほぼお目にかかれないだろう。
カクテルの味わいを確かめ終えたことろに、メインであるスイーツが二皿に分けて供された。
大きな皿に盛られているのは、和栗のババロアである。その上には、繊細な飴細工で飾り付けがされている。
一口頬張ると、素材のテクスチャーをしっかり残しつつも、ほぼ抵抗なく舌の上で淡雪のように消え去ってゆく。すかさず葉巻を数口、金木犀のような風味がエッジ鋭く立ち上がり、甘さの残る舌に対してかまいたちのような傷跡を残し、綺麗に消え去ってゆく。
シャープかつ、ふくよかなテイストとアロマが私をやわらかく包み込んでゆく-----。
最高という他無い。贅沢の極みである。
Aman Tokyoの設えは、確かに贅沢だが同時に郷愁を覚える素朴さにあふれている。
目にはいるのは、木の壁であり、石である。ロビーにおいても、不必要に豪華な調度品は一切なく、「詫び・寂び」のテイストすら感じる。
日本文化を高度に理解し、高い次元で西洋文化と融合させた数少ない例と言っても過言ではないだろう。
そして、Aman Tokyoのシガーラウンジはその名の通り「シガー」しか吸えない。紙巻きタバコも、パイプもお断りなのだ。これほどシガーのことを考えて用意された空間はなかなかお目にかかれない。
そんな空間で葉巻を思う存分くゆらせることができる贅沢を、ぜひ味わってほしい。
計算され尽くした配置の間接照明と、絶妙な光量で空間はかたちづくられる。
天井を見上げ、調度品に目をやり、葉巻を味わい、スイーツを味わい、そして夜景を見ていると、葉巻が終盤に近づいてきた。
空間と会話を楽しむことに主眼を置くあまり、葉巻の味わいのディテールは忘却の彼方であったが、強く印象に残った感想として「変化のない」葉巻であったかのように思う。
鮮烈な香りも徐々に薄れ、味の輪郭がぼやけ、すこしドミニカ葉巻のような粉っぽさと平坦さが続いていたように思う。
序盤の感動が続くことはなかった。しかし、シガースモーキングはそんなことの連続である。
なに、落胆することはない。また新しい葉巻に火をつければいいだけの話だ。
まだ吸い終わるには勿体無いか、という長さで葉巻をアシュトレイに置き、バーカウンターを眺めてみた。
ぴしっと制服を身に纏ったバーテンダーが精緻かつ素早い所作でカクテルメイクをしている。
バックバーには様々なボトルが並び、それらが夜景のビル群のなかに浮遊しているかのように錯覚する。
Aman Tokyoのラウンジに訪れて強く感じたことは、「余裕」である。体の髄までリラックスできる空間だけがもたらしてくれる、心の余裕。
何かを味わう、何かを楽しむといったエンタテイメントとしての要素ももちんあるが、そこにあるオーソドックスかつ高度な各々の要素が渾然一体となって強烈なリラックス効果を生み出しているのだ。
ラグジュアリーという言葉を敢えて使うとすれば、きらびやかで絢爛豪華なだけの空間は、ラグジュアリーの本質からは外れている。
人の心を落ち着かせる、高度な精神世界を有した空間こそ、生み出すのが極めて難しい、真のラグジュアリーである。
広い空間と文化的、技巧的水準の高い設え、最高のホスピタリティ。
街場のバーと違う、それらに真似ができないところを挙げるとすれば(もちろん、街場のバーが悪いと言っているわけではない)、この部分にほかならない。
Aman Tokyo「The Lounge by Aman」は、その意味で東京屈指の実力を有しており、あなたに最高のシガータイムを提供してくれることだろう。
東京都千代田区大手町1-5-6 大手町タワー
営業時間:12時〜0時
電話番号:03-5224-3339
[シガーマップ]「Aman Tokyo シガーラウンジ」のレビュー