Bar Plat|神保町のバー

2015-06-05

御茶ノ水・神田界隈の、所謂「オールド・トーキョー・エリア」でBARというと、思い浮かぶ店が無い人の方が多いのではないだろうか。
確かに、六本木・恵比寿・渋谷(銀座はひとまず置いといて)などに比べると絶対数は少ない。
が、伝統ある由緒正しき街に優秀な消費者が居ないとは考えにくい。
むしろ東京西部の浮かれエリアより、求道的な客層は多いと思う。

神保町駅A5出口を降り、白山通りを「いもや」方面に進む。
三分も歩くと、それから「オーセンティックバー」を想像するには難しい、わりとポップな赤く丸い看板を掲げた「Bar Plat」が見えてくる。
もっともポップなのは看板だけで、すぐに地下へと続く怪しげな階段が視界に入る。
恐る恐る進むと、見慣れた「オーセンティックバー」然とした重厚な木の扉が現れた。
入店すると、ウッドを基調とした温かみのある設え。
一枚の木製のカウンターが佇んでおり、テーブル席などは無い。
縦に長いわりとコンパクトな空間だが、窮屈さなどは感じられない。
コートを掛け席に腰を下ろすと、店主の伊藤氏が現れる。
フチなしメガネのお似合いになる、ダンディながらも柔らかさのある方だ。

早速オーダーに入る。

「もう下地はできていますか?前のお店ではどんな酒を、どの程度お飲みになりましたか?」
当然のようにこの質問をされ、客の現在欲している飲み物を、状態から解析していく。
私は、前の店では蕎麦と日本酒を摂取していたのでその旨を伝え、加えて手元にはLa Gloria Cubana No.4 (SEP11)があることと、この葉巻に合う、最初の一杯として適切な、甘めの強いカクテルを欲していることを伝える。

すると程なくして甘めに調合された柔らかいフレンチコネクションが提供される。
何のアマレットを使ったか、を失念してしまったが、アルコール臭を感じることがなく丸いながらもしっかりとコシがあり、実にうまい。
飲みなれない日本酒を摂取して辟易としていた私の弱った胃に、スッと染み込んでゆく。

さほど経たないうちにスイスイと飲み干し、二杯目のオーダーに入る。
「フレンチコネクションと同じベクトルだが、それよりも濃く、アルコール度数が高い、べっとりとしつつも後味はキレのある何か」という漫然としたオーダーをすると、「濃い、というのは甘いということですか?それとも、甘みとは違う、味としての重さですか?酸味や苦味は立たないほうが宜しいでしょうか」と客の混沌とした注文に含まれている要素を紐解き、具体化して再提案してくださる。
客はその再提案を受け、自分の要求を再び咀嚼しなおし、より具体性を伴ったオーダーとして伝える。
この一連のやりとりを経ることで、自分の希望と出てくる酒とが高い精度でマッチするのだ。

「甘いのがいいです。あまり他の味覚は欲しておらず、パンチのあるものがいいです」と伝え、そして出てきたのが、ブランデーとペドロヒメネス(ポートワイン)のカクテル。
普通に考えれば合わない筈がない組み合わせだが、過去他のBARで飲んだ記憶が無いのが不思議だ。
まずブランデーの、酒としてのしっかりとした質感が舌に乗り、次に口腔内にはペドロヒメネスの甘くコクのあるフルーツの楽園ができあがる。
そして嚥下した後はブランデーのアルコール感がベタベタした感じを洗い流し、心地よくしつこくない余韻が鼻と口にかけてたなびく。
素晴らしいカクテルだ。

「濃く甘く、柑橘系の風味があり、重いけどサッパリしたカクテルを」とオーダーした同席した友人のオーダーに対して、グランマルニエ・トカイワイン・ブランデーを調合したカクテルが出てきた時は恐れ入った。
ブランデーがしっかりとした酒の味覚の土台を作り、トカイワインが甘さと酸味(スッキリ感)を、グランマルニエが柑橘系のフレッシュさをバランスよく主張し、要求に対してピッタリと当てはまっている。
「あなたはこういうお酒が飲みたかったんでしょ?」と見抜かれているようで感動的だ。

三杯目、「40度近辺か60度以上の、香りが鮮烈な華やかでスッキリとしたモルト」というオーダーにも、自分のイメージする物とパチリと歯車が合った酒が提供され(銘柄失念、スペイサイドの80年代のボトル)、葉巻のフィニッシュとともに一連のストーリーがエピローグを迎えた。
実に心地がよく、陶然とした満足感に包まれる。

酒のアテにはブルーチーズとウォッシュチーズの盛り合わせをオーダーしたが、これも好事家のツボをついたマニアックな品揃え。
チーズの提供温度も考えられており、ウォッシュチーズは熟成が進み流動体になる寸前の、最も美味しいタイミングで楽しむことができた。

ウイスキーのボトルの品揃えが豊富だったり、ツマミがマニアックだったり、カクテルが美味しかったりのバーというのは多いが、それらを備えた上で客の要求に対して高い精度で酒のコンサルティングをすることが可能なイケてるマスターのいる店、というのは少ないのではないだろうか。
その意味では、Bar Platは非常に稀有なバーであると言えるだろう。

洋酒好きの御仁には、是非一度足を運ぶことをオススメする。

 

Bar Plat

東京都千代田区神田神保町1-14ミツワ神保町ビルB1F
営業時間:19時〜4時

電話番号:03-3296-3666

定休日:日曜・祝日

 

Text by S.Oya