コラム|シガーは孤独に耐えられない

2017-02-07

シガーの目利きというのは慣れが必要だ。
キャビネットや化粧箱の中に並んでいる中で、これという一本を手に取るためには、視覚と触覚と嗅覚を働かせ、経験に照らし合わせて判定する事になる。
単純にダメージがあるか(穴や亀裂などの傷の有無、カビやブルームなどコンディションによるもの)、状態はどうか(過加湿でふかふかに柔らかくなっていないか、乾燥でバリバリになっていないか)。箱の底面にある生産年月や生産工場のスタンプも参考にする。

シガーを多く取り揃えているショップでなら、情報がたくさんあるので選ぶのは難しい事ではない。
よくわからないなら、キャビネットなら束ねられた中心の一本を一本押し出す。周囲をぐるりとシガーに囲まれた一本は香り豊かでふくよか。リボンで結ばれたシガーを蜂の巣に見立てれば、さながら女王蜂だ。
化粧箱なら両側をシガーに挟まれた一本をとれば良い。化粧箱の並び順はカラーグラデーションで決まっているので、下の段半分に品質の悪いものを隠しているというわけではない。シガーの味わいはラッパーの色では決まらない。



キャビネットはこのように取り出すのが正しい。


だが、バーなどに置かれたヒュミドールの中から選ぶ場合……これは少し注意を要する。
ヒュミドールに入れられているシガーは、基本的に複数の種類がバラバラに入っている事が多い。
そういった場合にチェックするのは、まず生産国が同じシガーがまとめられているかという事だ。
シガーは相互に干渉し合う。ドミニカとキューバのシガーは同じヒュミドールに混ぜない方が良い。それぞれに独特の特徴があるが、それが混ざり合ってしまうこともあり、良い結果にはならない。

ヒュミドールのコンディションにも要注意だ。ヒュミの蓋部分には加湿器がついているものが多いが、そこに大量に注水され内部が過加湿になっていると、加湿器直下のシガーはかなりの水分を含む。それをそのまま放置すると、葉巻が膨らみ破裂する場合がある。ヒュミドールの中のシガーは時々状態をチェックすると同時に、位置を変えてローテーションしてやると良い。
分かりやすい品質のチェック方法としては、ヒュミドールがシガーで一杯かどうかで分かる。底板が見えるほどまばらにしかシガーが入っていない場合、多くはそのシガーは死んでいる。

 


このような状態で置かれていたシガーはだいたい死んでいる。

シガーの熟成は水分と時間と微生物類が内部成分の変化を促成して成るものだ。空間内の空気が多いと、あっという間にその空気に全てを吸い取られてしまう。(チュボスは極端に空気が少ない環境で空気の流れをほぼ止めているのでそれとは異なる)
ヒュミドールの中に少ししかシガーが入っていない場合、それは「多くの”空気”とシガーが少し入っている」という状態なのだ。スペースには空気でなくシガーを詰めてやれば、内部成分を空気にとられるということを最小限に防げる。

だからといって、シガーを密閉したり真空にしたりして空気を遮断する必要はない。空気は必要な要素であり、多すぎる空気が良くないだけなので、極端にはしるとこれもまたシガーに良くない影響を及ぼす。
真空パックにしてもシガーの味は変わるが、それは「熟成」による変化ではない。あえていうなら劣化だろうか。空気と時間と微生物全てが揃うことが「熟成」には必要だ。


加湿器直下に曝され続けたシガー。膨張し、内側から弾けるように破裂している。


国内外の名店といわれるショップのウォークインヒュミドールを見ればわかるが、どこも空気をシャットアウトするような細工はしていない。
空気を止めて生きている生物は、ごく僅かな菌類以外にいない。ワインにコルク栓を使って呼吸させるように、葉巻にも空気は必要だ。
セロファン入りのシガーも多くあるが、セロファンは空気を遮断しない。

これらは本当に簡単な実験で、CABに一本だけ入れたものと満杯に詰めたものを用意してイグルードールに入れて数ヶ月後に比べたり、実際に真空パックにするとすぐわかる。
シガーは寂しがり屋なので、仲間と離されるとすぐに死んでしまうのだ。

もちろん、シガーは火をつけるまで分からない。だが、出来るだけ間違いない可能性の高い選択をするのであれば、ここに記した事を頭の隅に置いてヒュミドールを開けることをおすすめする。




Text by Tatsuya Igarashi:Twitter FaceBook